大和総研コラム

ニューヨークでは全米初の混雑税を導入へ

  • 国際
  • 掲載日 : 2019年4月24日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター シニアエコノミスト (NY駐在) 橋本政彦

ニューヨーク州議会は4月1日、ニューヨーク市マンハッタン区の南部を通行する自動車に対する課税、いわゆる「混雑税」を含む予算案を可決した。まだ具体的な実施時期や課税額は決定されていないものの、2020年末からの実施を目指すとしている。

ニューヨーク市内での慢性的な渋滞は長年問題視されてきたが、近年のライドシェアの普及によって、年々深刻さを増している。ニューヨーク市の報告書によれば、市内の交通において大きな存在感を占めるイエローキャブ (タクシー) の登録台数が、2018年時点でおよそ1万3, 000台であるのに対し、市内を運行するライドシェアの台数は2015年時点の1万2,000台程度から、2018年時点で8万台強へと急増した。

ライドシェアによる渋滞の深刻化に対し、ニューヨーク市議会は2018年8月には、ライドシェアの登録台数を制限する法案を可決している。しかし、これは既存タクシーに対する優遇であるとして、ライドシェア事業者や利用者からの批判が強かった。ライドシェア事業者が、渋滞緩和のための方策として混雑税を提案し、導入に向けたロビー活動やキャンペーンのための資金拠出を行ってきたことが、今回、混雑税の導入を後押ししたとみられる。

ニューヨーク州議会の説明によれば、混雑税によって得られる税収は、ニューヨーク市内の地下鉄の改修に利用されるという。市内の地下鉄の老朽化、それに起因した慢性的な遅延の発生は長年大きな社会問題となっており、より安価な交通手段である地下鉄の利便性を改善することで、混雑税による利用者の不満を軽減させようという狙いがある。

だが、こうした計画は果たしてうまく進むのであろうか。ニューヨーク市内の地下鉄を運営するMTAの試算によれば、地下鉄の改修に必要な費用はおよそ88億ドルにも上るというが、過去には景気悪化による資金不足によって地下鉄の延長工事を凍結したという苦い経験がある。

また、地下鉄網の整備に関してボトルネックとなるのは必ずしも資金面での問題だけではない。老朽化した設備を長期間放置した結果、改修のためには非常に長い時間と手間が掛かると見込まれる。通常、ニューヨーク市内の地下鉄は24時間運行されているが、改修工事のために一部区間で週末などに運行を停止するということは珍しくない。改修が大規模になればなるほど、その悪影響や利用者からの不満・反発が大きくなる可能性が高い。実際、マンハッタン区とブルックリン区を結ぶカナーシー・トンネルでは、2012年の大型ハリケーン・サンディによる損傷を修復するため、2019年4月から15ヵ月間に亘って全面閉鎖する計画が立てられていたが、利用者への影響の大きさや不動産市況の低迷への不満から、その計画が撤回された。

自動車の代替手段として地下鉄網で利便性を確保することは、少なくともニューヨークにおいては容易ではないと考えられる。渋滞が社会問題となっているカリフォルニア州などでも混雑税の導入が検討されており、全米で初となる混雑税の効果が注目されるが、渋滞の緩和状況だけではなく、多角的な視点からの評価が求められる。


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