大和総研コラム

長く楽しめた桜に思う:異常気象に備えよ

  • 環境
  • 掲載日 : 2019年4月19日
  • 大和総研調査本部 研究主幹 河口真理子

今年の桜は、3月下旬に暖かくなり一気に開花が進んだが4月上旬に真冬並みの寒波が戻ってきたおかげで思いのほか長い間楽しめた。また4月10日は降雪があったおかげで桜に雪が降り積もる幻想的な景色も楽しめたようだ。しかし、風流な光景と喜んでばかりはいられない。これも温暖化による異常気象の一環とも考えられるからだ。

この3月、環境省は「民間企業の気候変動適応ガイド」を公表した。副題は「気候リスクに備え、勝ち残るために」となっている。CO2などの温室効果ガスの排出がもたらす地球温暖化・気候変動の対策には、温室効果ガスの排出削減 (省エネ、再生可能エネルギーへのシフトなどによる) をめざす緩和策と、すでに起きている異常気象のリスクを回避し軽減する適応策の二つがある。世界的に見ても2015年に合意されたパリ合意のもと脱炭素をめざして省エネの強化、再生可能エネルギーへのシフトは加速している感がある。しかしながら現在地球規模での温暖化は昂進しており、世界的に干ばつや洪水などの異常気象が頻発している。

従来日本における気候変動対策は省エネなど緩和策が中心であり、適応策は少なかった。これに対して、本ガイドでは「1時間100mmを超える豪雨や、40℃を超える猛暑等の異常気象が各地で観測され」、民間企業の事業活動への影響が無視できないほど大きくなってきていると警鐘を鳴らしている。

たとえば昨年夏の西日本豪雨災害では、工業用水の供給停止によって操業停止に追い込まれた製造業、断水のために営業を長期停止したレストランチェーン、顧客減少で経営が悪化したレジャー企業などの事例が報告されている。しかしこれら災害に対する適応策は遅れており、災害時の事業継続計画 (BCP) を策定している大企業は81.4%にのぼるが、その想定リスクに洪水が含まれているのは43.2%にとどまる。

企業にとって、今後の事業を継続するためにも異常気象を今後も発生するシステマチックな事象ととらえ、戦略的に取り組むことの重要性は高まっている。それはリスク回避とともにビジネスチャンスにもなる。自社工場や店舗が洪水や竜巻の被害にあった場合でもBCPがしっかり機能して他社に先駆けて早期操業開始ができれば、ビジネスチャンスになるからだ。また温暖化が進み自然災害が世界的に増加することを前提に、企業は原材料の生産者との連携を強化して原材料の品種や生産方法の柔軟な変更や、供給先の変更、代替材料の開発、ビジネスモデルの変更なども検討すべきであるし、屋外作業の従業員の熱中症対策強化などの重要性も高まる。豪雨や豪雪が通勤時を直撃する事態も増えており、災害時の働き方も根本的に見直す必要があるだろう。

なおこの発想は企業だけでなく個人にも当てはまる。たとえば大雨警報が出た時の出勤風景を見ても、分厚いレインジャケットとアウトドア用のレインブーツに防水リュックの人もいれば、ヒールにミニスカート、革の高級バッグを持っている人もいて、異常気象への備えは個人差が大きい。通常通り電車が動いて、道路が冠水しなければ、ヒールでも耐えられるかもしれない。しかし、大雨の中を歩く羽目になったらどちらが安全かは明らかだ。長く楽しめた桜は企業も個人も、気候変動リスクへの対応をしっかりすべきという警告かもしれない。


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