大和総研コラム

財産開示と「破産者マップ」

  • 政治
  • 掲載日 : 2019年4月11日
  • 大和総研金融調査部 研究員 小林章子

現在開会中の第198回通常国会において、民事執行法等の改正法案が審議されている (※1) 。この改正法案では、民事執行法で設けられている「財産開示手続」の大幅な見直しが提案されている。

平成16年4月から始まった財産開示手続とは、金銭債権について勝訴の確定判決等を得た債権者が、判決に基づいて債務者の財産を差し押さえるための準備として、債務者の財産に関する情報を取得できる制度である。債権者は、まず債務者の住所地などの裁判所に財産開示手続の申立てを行い、裁判所は債務者に対して、財産目録の提出や裁判所における財産状況の陳述を命じる。これらの手続を通して、債権者は差し押さえるべき債務者の財産のありかや内容を知ることができ、差押えに進むことが可能となる。

このような財産開示手続には実効性の問題も指摘されている。利用状況を見ると、債権者による申立ての件数は平成22年の約1,200件をピークに減少し続け、平成27年は800件弱まで落ち込んでおり、利用件数がそれほど多いとはいえないのが実情である (※2) 。このような実情を踏まえ、改正法案では、財産開示手続をより利用しやすくするための見直しが複数盛り込まれた。例えば、現行では除外されている仮執行宣言付き判決や支払督促などの債務名義 (債権の存在を表示する文書) に基づく開示の申立てが可能になり、債権者は債務名義の種類にかかわらず、手続の利用が可能になる。

また、財産開示手続とは別の手続として、預貯金口座の情報を保有している銀行などの第三者からの情報取得手続が創設されることとされた (※3) 。具体的には、裁判所は債権者の申立てに基づき、第三者に対して、書面による情報の提供を命じる。債権者はその書面の写しの送付を受けて、情報を取得することができる。この情報の提供の義務を負う第三者として、不動産の情報は登記所、預貯金の情報 (預貯金の有無・取扱店舗・金額など) は銀行等、上場株式などの情報はほふりや証券会社等が指定されており、命令を受けた金融機関等は、顧客の情報を提出しなければならなくなる。

他方で、財産の情報を開示される債務者のプライバシー保護などの面では懸念が指摘されているところである (※4) 。自分の財産の状況を知られるということへの心理的な抵抗感については、最近話題となった「破産者マップ」を想像すれば実感しやすいかもしれない。破産という財産状態を全世界に公開された「破産者マップ」と比べれば、債権者への財産開示で受ける制約は限定的かもしれない。しかし、いったん開示されればもはや情報が開示されなかった状態に戻すことができないという点で、配慮の必要性が高いことには変わりがなく、現行の財産開示手続が仮執行宣言付き判決など暫定的な債務名義を除外している理由や、財産状況の陳述が非公開で行われる理由もここにある。改正後の手続の運用においては、十分な配慮が期待される。


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