大和総研コラム

MMTで日本は財政再建から解放される ?

  • 経済
  • 掲載日 : 2019年4月9日
  • 大和総研経済調査部 シニアエコノミスト 神田慶司

「現代貨幣理論」 (Modern Monetary Theory、MMT) への関心が高まっている。米国の民主党左派は、グリーン・ニューディール (脱炭素社会を実現するためのインフラ投資) や国民皆保険への大規模な財政支出を訴えているが、これをサポートする理論としてMMTが引用されている。また2020年の大統領選ではMMTが議論されるだろうと言われている。

MMTは伝統的な経済学の考え方とは大きく異なる。例えば、自国通貨を発行する政府は財政赤字 (債務の増加) を懸念する必要はないとしている。政府は家計や企業とは異なり、通貨を発行して利払い費に充てられるからだ。ただし、財政支出が際限なく拡大すれば、いずれハイパーインフレに直面して経済が立ち行かなくなる。そのためMMTでは、インフレが財政の唯一の制約条件となっている。

日本がデフレに陥ってから20年ほど経ったが、現在でもデフレからの完全脱却には至っていない。その間に政府債務は経済成長率を上回るペースで増加しており、公債等残高は名目GDP比で200%に迫っている。政府はデフレ脱却と財政再建に取り組んできたが、MMTを単純に当てはめると、政府は財政再建を棚上げし、デフレ脱却に専念して財政支出を拡大すべきと言えそうである。

だが、このように考えるのは早計だろう。確かに、日本銀行が異例の金融緩和を続ける中で、財政支出の拡大が経済活動に支障をきたす事態を招くとは、当面は考えにくい。しかしだからといって財政赤字を放置し、政府債務が大幅に積み上がると、インフレになったときにインフレをコントロールできないリスクが大きいからだ。

インフレになれば金融政策は正常化に向かうが、国債市場の参加者がこれまでのように国債を購入するとは限らない。高いリスクプレミアムを要求されて国債金利が大幅に上昇し、政府債務が雪だるま式に増加することは十分に考えられる。そのような状況では通貨への信認も揺らぐだろう。多くの人が政府の発行する紙幣に額面通りの価値がないと判断し、金融資産を外貨などに替える動きが広がれば、急激な通貨安と輸入インフレが起きる。

政府が国債金利やインフレを安定させようと財政再建に着手するときには、家計や企業は短期間に大幅な経済負担を求められることになろう。MMTが現実に機能するためには、国債や通貨に対する信認の維持が不可欠だ。

家計や企業にとって最も重要なのは、経済社会の長期的な安定である。それを実現するために望ましい政策とは何か、改めて議論する機会をMMTは提供している。


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