大和総研コラム

既に合意なき離脱を体感できる英国ではペットのパスポートも失効の危機に

  • 国際
  • 掲載日 : 2019年3月27日
  • 大和総研ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト (LDN駐在) 菅野泰夫

先週、ユーロスターを利用したパリまでの出張があった。通常であればユーロスターはロンドン、パリ間を約2時間30分で運行しているため、午後からのアポイントなどであれば、日帰り出張も可能である (実際には1時間の時差があるうえ、英国はシェンゲン協定に入っていないため出入国審査などの時間がかかり簡単ではないが) 。しかし、ユーロスターが発着するパリ北駅では、3月初めからフランス税関職員による抗議行動で、毎日まともに運行できていない。事実、急な運行キャンセルや税関検査待ちの長い行列により、乗車までに5時間待ちの便もあった。結局、飛行機に振り替える客などの混乱も重なり、1日がかりでの移動となった。これは合意なき離脱に伴う混乱に備え、増員や待遇改善を求める職員が、離脱後に今まで以上に慎重な税関検査が必要となることを見据え、「慎重な検査を実施すると、これほど大変なことになる」ということを証明するための抗議だという。

英国では合意なき離脱の可能性が高まりつつあることから、そのための対応が活発になっている。しかし、英国、EUともに万全の準備とは言い難く、合意なき離脱が起こった際の実体験が既にできてしまう状況だ。合意なき離脱ともなれば、航空セクターでの混乱や、医薬品供給不足の恐れがある。また食料品の3割はEUからの輸入に頼っているため、関税の引き上げや輸送の遅延による食料品価格の上昇などが予想されている。その他にも携帯電話使用料の上昇 (EU内で撤廃されたローミングチャージの復活) など挙げればきりがない。

一方、旧知の英国人は春休み (イースター休暇) には、ブレグジットの混乱を避けるため、 (当初の離脱予定日であった) 3月29日までに英国を脱出してフランスの別荘に行く予定とのこと。この知人は、いつも自家用車で (フェリーを利用し) ロンドンからフランスの別荘に行くが、合意なき離脱の際には、 (EU加盟国で共通であった) 英国の免許証はEU域内で失効するため国際免許を取得したという。また知人が最も懸念していたのは飼犬のパスポートである。EU内に飼い主と一緒にペットも旅行する時のスキームであるEUペットパスポートは、合意なき離脱が起こった際には失効し、英国は第三国と同じ待遇になる可能性が高い。そうなると旅行前に狂犬病の予防接種を行い、血液サンプルをEUが承認した検査ラボに送り、検査結果が基準を満たしてから3か月待って初めて渡航が可能となる。これを避けるためにも、イースター休暇にペットを帯同して海外で過ごす英国民は、こぞって離脱日前の出発を画策しているという。

先のEUサミットで英国のEU離脱日は3月29日から最短4月12日に延期された。しかし、ロンドンではリスボン条約50条行使の無効を求めて数十万人のデモが起こるなど、未だ状況が混沌としている。離脱する前から既に影響がユーロスターからペットにまで広範に及んでいるブレグジットは、次に何が起こるか誰も予想できないだろう。


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