大和総研コラム

米国で危険にさらされる高齢者の金融資産と望まれる方策

  • 国際
  • 掲載日 : 2019年2月6日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター 主任研究員 (NY駐在) 鳥毛拓馬

他の先進諸国と同様に米国でも高齢化が進んでおり、今後も高齢者人口は増加することが見込まれている。米国勢調査局によると、2017年時点で65歳以上の人口比率は15.64% (約5,100万人)であったが、全てのベビーブーマー (1946年~64年生まれ) が65歳以上となる2030年には20.60% (約7,300万人) に達し、5人に1人が退職世代となることが想定されている (※1)

米国では高齢化の進展に伴い、高齢者の金融資産が家族や信頼するファイナンシャル・アドバイザーなどにより搾取 (※2) される被害が深刻化している。米国退職者協会の報告によると、毎年、65歳以上の高齢者の5人に1人が金融資産の搾取の被害を受けており、その額は実に年間約30億ドルにもなるという。1件当たりの被害額は12万ドル以上で、これは典型的な50歳以上の世帯の退職後の貯蓄額に相当する。ただし、高齢者の金融資産の搾取は、高齢者が搾取に気付かなかったり、否定したりすることなどから、その圧倒的多数が当局に報告されていないと言われており、実際の被害額はさらに大きくなると考えられる。

こうした実態がある中、米国では連邦議会、規制当局、州、自主規制機関などによる高齢投資家保護のための取組みが行われている。例えば連邦レベルでは、2018年5月に成立した金融規制改革法「経済成長、規制緩和及び消費者保護法」 により、金融機関とその従業員には、65歳以上の高齢者の金融資産の搾取が疑われた場合、当局にその旨を報告することを強く促す規定が盛り込まれた (※3) 。従来、金融機関は顧客の個人情報保護の観点から、高齢者の金融資産の搾取が疑われるケースがあっても、当局への報告を躊躇することがあったようだ。新規定により、これまでより当局に報告されるケースが増えることが見込まれるとともに、より被害実態も明らかになるものと思われる。

2018年2月には証券会社の自主規制機関であるFINRA (Financial Industry Regulatory Authority:金融業規制機構) が、ブローカー・ディーラーが顧客の金銭的搾取について合理的な疑いを持った場合に、当該顧客口座からの資金または証券の支払いを一時的に保留することができる新たな規則を制定している。

もっとも、このような取組みは部分的な対応とも評価されており、引き続き、高齢者に対する金融資産の搾取の被害は拡大することが予想されている。今後も、連邦議会、規制当局、金融業界には、高齢投資家の金融資産の搾取を防止する取組みが継続されるものと思われる。

  • ※1https://www.census.gov/data/tables/2017/demo/popproj/2017-summary-tables.html
  • ※2資格を持たないファイナンシャル・アドバイザーや被害者と面識のない者により行われる詐欺的なケース (financial fraud) と異なり、金融資産の搾取 (financial exploitation) は、家族や資格を持つファイナンシャル・アドバイザーなどにより行われることが多い。具体的行為としては、金銭の窃取や無断で小切手を現金化したり、クレジットカードを利用したりすることなどとされる。
  • ※3前提として、従業員が金融資産の搾取の被害を特定し報告できるようになるための研修を金融機関が実施することが求められる。

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