大和総研コラム

NISAは買値を忘れる制度 ?

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2019年1月29日
  • 大和総研金融調査部 研究員 是枝俊悟

今年になって「株の買値がわからなくなった」という個人投資家の声をちらほら聞くようになった。これは、2018年末に (一般) NISAにおける5年の非課税期間が初めて満了し、ロールオーバーや課税口座への払出しが行われたために生じたものである。

非課税期間の満了に伴ってロールオーバーや課税口座への払出しが行われた場合、税制上は一度2018年末に売却し (その差損益をなかったものとみなし) た上で再購入したものとして扱われ、「簿価」が当初の買値から2018年末の時価に書き換わる。このため、当初の「買値」と税制上の「簿価」が一致しなくなり、当初の「買値」がわからなくなってしまうのである。

ところで、古くからある相場格言の1つに「建値 (買値) を忘れよ」というものがある。短期の値動きに一喜一憂すべきではなく買値を忘れるくらいの気持ちで腰を据えて投資に臨むのがよいという趣旨であるが、本当に買値を忘れてしまえばあまり短期的な損益を意識せずに済むことも考えられる。

行動経済学の観点からは、「買値」が参照点となって、わずかな金額であっても損失を生じさせることに心理的な苦痛を感じたり、逆に損失の額が大きくなるとそれ以上値下がりすることに鈍感になってしまったりすることなどが知られている。買値を忘れてしまったほうが、かえって合理的に投資判断ができる可能性もありうる。

もちろん、購入した当時の取引報告書や取引残高報告書などには買値が載っているし、これらを捨ててしまったとしても証券会社に問い合わせるなどして買値を調べることはできるだろう (※1) 。だが、敢えてこれらをせずに買値がわからないままにしておくことも、案外悪いことではないかもしれない。

  • ※1証券会社には、取引記録の10年間の保存が義務付けられている。

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