大和総研コラム

貿易戦争でも米国企業の景況感が悪化しない理由

  • 国際
  • 掲載日 : 2018年10月10日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター シニアエコノミスト 橋本政彦

NAFTAの再交渉が3ヶ国で合意に至った (新たな名称は米国・メキシコ・カナダ協定、USMCA: United States-Mexico-Canada Agreement) ことで、米国の通商政策に対する世界的な警戒感は幾分和らぐこととなった。しかし、米中間の対立には依然解決の道筋が立っていないこと、米国政府は自動車・同部品に対する追加関税を検討中であることから、通商政策に対する不透明感が強い状況はなおも続いている。

米国、および貿易相手国による関税措置が徐々に拡大する中、各種サーベイなどでも関税措置を懸念する声は明確に増加しつつある。また、FRB (連邦準備制度理事会) が9月に公表したベージュブック (地区連銀経済報告) では、追加関税を巡る不透明感による設備投資の先送りが報告されている。だが、こうした追加関税に対する懸念の声が高まりつつも、米国企業の景況感は非常に高い水準を維持したままであり、今のところ悪化の兆しは見られていない。

その要因として考えられるのは、2018年からの税制改革の効果などにより、追加関税による悪影響が問題とならないほど、国内需要が好調だということであろう。また、これに加えて足下のドル高傾向が追加関税による輸入コストの上昇分を相殺していることが、景況感の悪化を抑制している可能性がある。FRBが公表する名目実効ドル (ブロード) は、月次ベースでは直近のボトムである2018年1月から8ヵ月連続で上昇し、2018年9月時点では直近10年間で2016年12月、2017年1月に次いで3番目に高い水準となっている。

本来であればドル高は企業、特に輸出のウエイトが高い製造業にとってはネガティブな材料なはずである。実際、過去の推移を見ると、為替レートがドル高に振れる局面では、製造業の景況感も悪化することが多い。一方、足下では今のところ輸出数量の減速が見られていないこともあり、追加関税による輸入価格の上昇を相殺する効果、いわば通貨高のメリットにフォーカスが当たっていると考えられる。

しかし、こうした状況が先行きも続くとは限らない。名目実効ドルは2018年6月以降、前年比ベースでもドル高に転じており、7-9月期以降、企業収益への悪影響が認識されやすくなる。また、これまで見られなかった価格競争力低下による輸出数量への悪影響も、ドル高の進行にタイムラグを伴って今後本格化する可能性が十分考えられる。

仮に今後、企業の景況感が悪化したとして、それが追加関税に起因するものなのか、それ以外の要因によるものなのかで得られるインプリケーションは大きく異なる。当面、追加関税への影響が注目されやすい状況が続くと見込まれるが、より幅広い視野をもって動向を注視していく必要があろう。

[図表] 米国製造業の景況感と名目実効ドル

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