大和総研コラム

リーマン・ショック後10年の中国 高まる金融リスク

  • 国際
  • 掲載日 : 2018年9月6日
  • 大和総研経済調査部 主席研究員 齋藤尚登

リーマン・ショックを契機とする世界金融危機に際し、中国政府は年間で実質8%成長を死守する「保八」を合言葉に、2008年11月に4兆元 (当時の為替レートで57兆円) の景気対策を発動した。これによりインフラ、不動産、製造業を中心に資金需要が一気に高まり、まずは銀行貸出、ついでシャドーバンキング (影の銀行) 経由の資金調達が急膨張した。

固定資産投資の急増をけん引役に中国経済は世界に先駆けて回復したが、債務残高は急増した。BIS (国際決済銀行) 統計によると、債務残高のGDP比は2008年末の141.3%から2017年末には255.7%に急上昇した。この水準や上昇ペースの速さは、かつて金融危機に陥ったり、バランスシート調整による景気急減速を余儀なくされた国々に匹敵している。

このため、2017年春以降は金融リスクの軽減が重要政策に位置付けられ、リーマン・ショック後の資金調達の中核を担った地方政府融資平台を含む企業のデレバレッジ (負債率引き下げ) が推進された。ちなみに、中国の債務残高のGDP比は2017年9月末の256.9%まで上昇が続き、12月末にかけて若干低下した。

2017年春のデレバレッジ重視から1年が経過し、皮肉にも今度はその行きすぎが警戒されるようになっている。例えば、インフラ投資は2013年~2017年前半まで前年比20%程度の伸びが続いたが、その後は減速傾向を強め、2018年1月~7月は同1.8%増にとどまった。これは、PPP (官民連携) によるインフラ投資プロジェクトの一部停止や見直しが広がったことが背景である。デレバレッジが推進される中、地方政府債務を急増させかねない資金調達の肩代わりや、投資元本・収益の保証などが改めて禁止されたのである。

こうした中、7月23日の国務院常務会議は、①財政政策の一段の積極化、②金融政策の穏健中立から穏健への緩和、③小型・零細企業へのサポート強化、④建設中のプロジェクトの資金手当て支援、といった景気サポート策を発表した。

景気サポートのため、緒に就いたばかりのデレバレッジが棚上げされることが懸念されている。足元のインフラ投資の腰折れは、不健全で金融リスクを高め得るPPPプロジェクトの見直しが背景である。こうしたプロジェクトを継続・拡大すれば、デレバレッジは難しくなる。残念ながらこの懸念には根拠がある。サプライサイドの構造改革は、過剰生産能力の解消、過剰不動産在庫の削減、デレバレッジ、企業コストの引き下げ、そして弱点の補強 (例えば、脱貧困やイノベーション重視など、中国経済が抱える問題点や弱点の改善、補強) の5つからなるが、7月31日に開催された党中央政治局会議では、当面は「弱点の補強」、特にインフラ分野の弱点の補強を最優先することが明示された。デレバレッジの重要度は相対的に低下したのである。

負債率をさらに高めることは、将来的な金融リスクを一段と高めることに他ならない。デレバレッジを漸進的に進める以外に、ソフトランディングの道はないのは明らかであるが、それを貫徹することはできるのであろうか。リーマン・ショックから10年が経過する現時点で、4兆元の景気対策の後始末であるデレバレッジは始まったばかりであり、しかも早々に試練に直面しているのである。


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