2018年7月26日に米国下院議会は、対米外国投資委員会 (Committee on Foreign Investment in the United States、以下CFIUS) の権限を強化することなどを内容とする「2018年外国投資リスク審査現代化法案」 (Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018、以下FIRRMA) を可決した。上院でも可決され、トランプ大統領の署名が行われることが見込まれている(※1)。
CFIUSとは、外国企業が米国企業を合併・買収により取得し支配する取引が、米国の安全保障上の脅威となるか否かにつき、投資案件ごとに審査、規制する委員会である。大統領には、このCFIUSの勧告を受けて外国企業による買収を差し止める権限が与えられている。2018年3月にシンガポールの半導体メーカーによる米国の半導体メーカーの買収がトランプ大統領により差し止められたケースは記憶に新しいところであろう。この制度は、もともと、日本企業による国防に関連する米国企業などの買収に対する懸念から1988年に導入されたものである。
FIRRMAは、米国の重要技術やその他のセンシティブな産業に対する外国企業 (特に中国の国有企業) からの投資が増加していることによる懸念に対処するために制定されたものである。具体的には、CFIUSが審査の対象とする取引の範囲を拡大し、軍事施設や米国政府の施設などに近接している特定の不動産取引や、米国の重要な技術やインフラストラクチャーに関連する投資も新たに審査の対象とする。一方で、一定の場合には、審査手続きを軽減する制度なども盛り込んでいる。
トランプ大統領は、既に6月にFIRRMAに関して、「この法案は、米国の重要な技術リーダーシップ、国家安全保障、および将来の経済的繁栄を脅かす略奪的投資慣行と戦うための追加のツールを提供するものだ。」として、同法案が成立すれば、速やかに同法を施行し、かつ、厳格に執行するよう指示する旨表明していた。このため、今後トランプ政権が強化されたCFIUSの権限をどのように行使していくかが注目されるだろう。
トランプ政権になってからは、中国企業による先端技術の買収に対する懸念が高まっており、CFIUSの審査も強化されていると言われている。FIRRMAも、基本的には中国国有企業による買収案件などを念頭に置いたものと思われる。もっとも、CFIUSによる審査が厳格化すれば、米国企業の買収を目指す日本企業にも影響はあり得る。CFIUSの権限が強化され、トランプ大統領もその活用を言明する中、米国企業の買収を検討している日本企業は、これまで以上にCFIUSへの対応を慎重に考慮する必要があるだろう。
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