大和総研コラム

アメリカでのインフレ実感

  • 国際
  • 掲載日 : 2018年7月11日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター シニアエコノミスト 橋本政彦

アメリカの代表的インフレ指標であるPCE (個人消費支出) 価格指数は2018年3月にFRBが目標とする前年比+2.0%に到達し、5月には同+2.3%まで加速した。また、市況変動の影響を受けるエネルギー、食品を除いたコアPCEを見ても、5月には2012年4月以来の同+2.0%に到達しており、FRBのインフレ目標は達成されたことになる。実際、筆者もアメリカに住む一消費者として、様々な商品やサービスの値上げに遭遇し、生活実感としてインフレを感じる場面は多い。

その代表例として挙げられるのは、住宅の家賃である。筆者が住む賃貸住宅は、2年間ごとの契約なのだが、当初の契約の段階で2年目の家賃の値上がりが条件として含まれていた。また、2年後の契約更新の際にも、当然のように家賃の値上げを提示された。周囲の人の話を聞く限りでも、賃貸住宅の契約更新に際して、家賃の値上げを提示されないということは非常にまれである。しかし一方で、提示された値上げについては、家主と交渉するのが一般的であり、値上げに不満を表明すれば、交渉に応じて値上げ幅が縮小されるケースも少なくないようである。言い方は悪いが、ニューヨークでは家賃に関して、かなり「ふっかけてくる」のである。

こうした業者による値上げに対して強気な姿勢は住宅に限ったことではない。筆者が実際に経験したものだけでも、駐車場、ケーブルテレビ、こどもの習い事など、突然大幅な値上げを告知された例は枚挙に暇がない。むしろ、交渉の余地がある分、住宅はまだ良心的な部類にあると言えるだろう。ニューヨークで暮らしていると、業者の値上げに対する躊躇は感じられず、むしろ、良いもの、需要が期待できるものについては、値上げして当然という開き直りすら感じられる。いわば、インフレマインドが経済全体に強く浸透している。

こうした状況にいざ身を置いてみると、インフレに対応した消費行動や資産防衛の重要性を改めて認識させられる。例えば、何か購入したい商品やサービスがある際には、値上げする前に購入に踏み切った方が得になるというケースは実際に少なくないし、金利が付かないキャッシュに資産を集中させることによる実質価値の目減りを実感することになる。職業柄、理屈としては理解していたつもりだったが、低インフレの日本に長い間暮らしてきたことで、インフレへの対応に自分がいかに慣れていないかを痛感させられている。

日本では依然、インフレ率が前年比+1.0%を下回る小幅な上昇に留まっており、デフレを脱却したとは言い難い状況にある。政府や日銀はデフレ脱却に向けた取り組みを継続していくことが期待されるが、デフレマインド払拭のためには、インフレに対する正しい理解を広く浸透させることも重要な課題であろう。


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