フェア・ディスクロージャー・ルール (FDルール) を導入する金融商品取引法の改正が2018年4月1日に施行された。上場会社においては、FDルール導入に伴う社内規程や社内体制などの整備への関心が高いようだ。
もちろん、FDルールに対応する上で必要となる社内規程や社内体制の見直しは、個々の会社によって異なるだろう。ただ、見直しに当たっての基本思想には、共通項があると思われる。筆者は、とりわけ次の二点が重要だと考えている。
①FDルールとCGコードの両立
投資家やアナリストなどと一切口を利かなければ、一応、表面的にはFDルールには抵触しないと言えよう。しかし、それでは「発行者による早期の情報開示、ひいては投資家との対話が促進される」(※1) というFDルールの趣旨に反することになる。加えて、コーポレートガバナンス・コード (CGコード) が求める主体的な情報開示 (基本原則3など) や株主との建設的な対話 (基本原則5など) にも反することとなる。FDルールを理由に対話を拒否しておいて、CGコードを「コンプライ」と主張するのは、悪い冗談でしかないだろう。
FDルールとCGコードを両立させるためには、FDルール対応を、情報提供の拒否ではなく、積極的な情報の開示・公表という観点で進めなければならない。
あくまでもその裏返しとして、「開示すべきでない情報」 (間違っても「開示したくない情報」と混同してはならない) について、開示・公表できるようになるまでは、適切に情報管理しなければならない、という整理になるだろう。
②形式 (数値) から実質へ
「数字」というものは厄介だ。確かに、抽象的・観念的な目標ではなく、具体的な「数字」が示されることで、ヒトはその実現に向けて邁進することができるという面がある。その反面、ヒトは「数字」にこだわる余り、物事の本質を見失ってしまうこともある。
FDルールは、その対象とする重要情報について、インサイダー取引規制の軽微基準のような数値基準を採用しなかった。そのため、具体的にどう対応してよいかわからない、と悩む関係者が多いようだ。しかし、これは、「数字」 (変動が何%か、金額が何円か) ではなく、「実質」 (市場・投資家はどう受け止めるだろうか、株価にどう影響するだろうか) に目を向ける契機となり得るように筆者には思われる。
インサイダー取引規制の軽微基準 (数値) に基づき情報管理を行っている上場会社にとっては、FDルール対応において「形式から実質へ」が重要なキーワードとなるだろう。
「精神論は結構だ。それより、具体的に何から手をつけたらよい ? 」
こうした実利一辺倒の質問に対して、筆者は次のように回答することにしている。
「社長さんがうっかり口を滑らせたときの事後対応ですかねぇ。」
どのような立派な人でも、うっかりは起こり得る。特に、アイデアが豊富でサービス精神の旺盛な人であればなおさらである。事が起こってから大慌てしないためにも、うっかり発言の事後対応くらいはきちんと整備しておいた方が無難だろう。これが表向きの説明だ。
もっとも、そもそも事後対応として、FDルール上、何が求められるだろうか ?
まず、社長が予定にないうっかり発言をした場合、その発言が未公表の重要情報に該当するのか否か、などを迅速に判断する必要がある。そして、FDルールに抵触すると判断すれば、速やかに適時開示やウェブ掲載を実施しなければならない。そして、うっかり発言に関する投資家からの問い合わせなどにも適切に応対しなければならない。
このように考えると、これらの事後対応プロセスの中には、実は①②で述べた要素が凝縮されていることが (さらに筆者の真意も) おわかりいただけるだろう。
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