大和総研コラム

この道 (2018年初の下げ) はいつか来た道

  • 国際
  • 掲載日 : 2018年2月19日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 小林俊介

金融市場が荒れている。米国時間の2月2日に債券価格が大幅に下落し、株価もアジア-欧州時間の2月6日にかけて大きく調整した。その後も本稿執筆時点では市場の乱高下が続いている。

発端となったのは米国雇用統計であり、市場予想を遥かに上回る賃金上昇率の加速である。そしてほぼ同じタイミングで2月5日にFRB新議長として就任した、パウエル氏の金融政策運営に関する力量の不透明感もあり、物価上昇に対してFEDが後手に回るリスク (いわゆるBehind the curve-引締めが遅れることで却って後の引締めが苛烈なものとなるリスク) が連想され、長期債の投げ売りにつながったとみられる。

株式市場の下落も同根である。過去数年間を振り返ると総じて、長期金利が低位に抑制されていることを前提とした資金フローが株高を支えてきた。サーチフォーイールドの動きに伴うクレジットスプレッドの縮小 (⇒成長株のバリュエーション向上) や、債券代替投資に伴いディフェンシブ/高配当利回り銘柄やREITを選好する動きがリスク資産の価格を押し上げてきたと言える。この大前提が崩れるとなれば、株価の調整も免れないということだ。

では債券・株式市場に対して決定的に重要な要因となった米国期待インフレ率の上昇は続くのだろうか。この点に関して気がかりなのは、いくつかの特殊要因が足下の賃金上昇率加速を演出しているのではないかという疑いだ。一つは、悪天候の影響だ。悪天候に伴う労働時間の減少が、時間制の賃金体系の外にある労働者の「時間当たり賃金」を計算上、上昇させた効果が全体の「平均賃金」を押し上げている可能性が高い。もう一つは、減税の影響だ。大幅法人減税の成立に伴い、12月から1月にかけて米国の名だたる企業が続々と、最低賃金の引き上げをはじめとして、一時的に従業員への還元を増やす措置を講じてきた。

この影響を除いた賃金上昇率がどの程度であったかを測ることは容易ではない。しかし、これまでの米国賃金上昇を抑制してきた「見えざるスラック (失業率にはカウントされない非労人口) 」の問題は未だ解決には程遠い水準にあり、雇用者数増加の中身も相変わらず労働集約的で低生産性・低賃金の業種に偏っている。このことを踏まえると、上述したような特殊要因が今回の賃金上昇率加速を演出した疑いが濃厚となってくる。

こうした事情に関する説明をパウエル新FRB議長が2月28日の議会証言、ないしは3月21日のFOMCデビュー戦で丁寧に行えば、債券・株式市場の混乱は収束に向かうだろう。早速、新議長のコミュニケーション能力が試されることになる。イエレン前議長は市場との対話が抜群に巧みであると評されてきたが、今回と全く同様の場面は2016年序盤に観察された。当時も2015年12月に金融危機後初めてとなる利上げを決め、その際に提示されたドット・チャートが2016年に4回の利上げを示唆していたこと、そしてその裏側で中国からの資金流出問題が表面化していたことなどを受け、金融市場は大きな下げを記録した。しかし3月のFOMCに先駆けてイエレン前議長を含め当時のボードメンバーが丁寧な対話を市場と行った結果として、2月末には底入れが確認されている。そしてパウエル新FRB議長も、当時のボードメンバーの一員として、当事者として記憶を残しているはずだ。

この道はいつか来た道。つくづく、相場は「記憶のゲーム」である。


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