大和総研コラム

企業の貯蓄と投資を考える

~2016年度法人企業統計より~
  • 経済
  • 掲載日 : 2017年9月13日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 太田珠美

2017年9月1日、財務省から2016年度の法人企業統計が公表された。何かと注目される内部留保 (利益剰余金) は、好調な企業収益を背景に過去最高の406兆円となった。現金・預金の保有状況も注目されることが多いが、こちらも過去最高の211兆円となっている。

内部留保や現金・預金保有の増加に対しては、利益が増えているのに賃金はさほど上がらず設備投資もさほど増えていない、企業はお金を貯めこんでいる、という見方がある。確かに、利益の伸びに対して人件費や設備投資の伸びが追いつかなければ、当期純利益は増加し、結果的に内部留保も増える (株主への配当支払いを一定とした場合) 。会計上の利益と現金・預金の実際の出入りは異なるものの、現金・預金も増えることが多い。

しかし、内部留保の増加は、企業が資金調達を借入れに頼るのではなく、自ら稼いだ資金で賄おうとした結果ともいえ、財務健全性の観点ではプラスに評価すべきことだ。そもそも、内部留保は現金・預金と同義ではなく、少なくとも406兆円と211兆円の差額分 (195兆円) は別の資産を保有していることになる。そして現金・預金も純粋な余剰資金ではない(※1)。ある一時点の内部留保や現金・預金の金額について議論することにあまり意味はないように思える。むしろ、企業がこれまでどういったことに資金を使ったか、またこれからどういったことに資金を使っていくべきか、ということに目を向けた方が建設的な議論になるのではないか。

このところ、賃金や国内設備投資は緩やかな増加基調にあるが、特に大企業においてはM&Aなど海外への投資を増やしている。これは海外に投資した方が稼げる可能性が高いという経営判断によるものだろう。法人企業統計上、当期純利益は大幅に伸びているが、売上高はさほど伸びていない。法人企業統計の売上高には海外子会社の売上高は含まれず、海外子会社が生み出した利益は、一部が親会社への配当支払いの形で国内に還元されている (親会社が受け取った配当は営業外収益に計上される) 。2016年度の営業利益 (本業で稼いだ利益) は+4.0% (前年度比+2兆円の59兆円) であったのに対し、営業外収益は+15.9% (前年度比+4兆円の30兆円) と大幅に伸びている (営業外費用は前年度比で減少) 。これらの数字からは、当期純利益の伸びが本業 (国内) で稼いだ利益より、海外子会社からの配当 (営業外収益) に起因している可能性が高いことを示している。国内より高い利益率が期待できる海外に投資をするという経営判断はあって然るべきだ。

一方、日本経済の成長という観点からは、企業が海外で稼いだ利益が何らかの形で国内に還流することが必要だろう。賃金や設備投資だけでなく、無形資産への投資も重要だ。厚生労働省の「平成28年版 労働経済の分析-誰もが活躍できる社会と労働生産性の向上に向けた課題」 (労働経済白書) は無形資産投資の重要性を指摘している。企業の労働生産性の向上にはTFP (Total Factor Productivity:全要素生産性) の上昇が必要であり、無形資産投資がTFPの上昇に波及効果を持つという。特にソフトウェア等のIT関連 (情報化資産) への投資、人材育成等による人的資本への投資を増加させることが日本の課題であるという。今後企業が海外で稼いだ利益が、こういった無形資産に投じられることを期待したい。


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