6月7日日本の経済産業省とタイの工業省との間で東部経済回廊 (EEC) 及び産業構造高度化に向けた協力に関する覚書が署名された。日本とタイの経済の結びつきは強く、タイへの直接投資額を国別でみると、日本が約4割と最も高いシェアを占めている。そのため、タイ政府は日系企業による協力に強い期待感を示している。
EECは2036年までの中長期的な経済成長戦略であるタイランド4.0(※1)の中核として位置づけられている。EECはバンコク東部のチョンブリ県、ラヨン県、チャチュンサオ県を投資優遇地とした経済特区で、今年2月に始動した。インドシナ半島を貫く東西経済回廊と中国とインドシナ半島を結ぶ南北経済回廊の中心に位置しており、アクセスも良好で、中国の一帯一路との相乗効果も期待できる。特に、最重要プロジェクトとされている、①ウタパオ空港の拡充、②レムチャパン港の開発、③空港間の東部高速鉄道の敷設、④電気産業といった特定産業のトップ企業の誘致、⑤都市開発、の5つは2017年中に開始される。
EECの競争力を高めるために、タイ政府は域内の産業に対する特別恩典を整備しており、高度技術を用いる重点産業、インフラ開発、観光地開発、R&Dと高付加価値サービス業が重点的に奨励される。すでに法人所得税が免除されている業種に対する免除期間終了後5年間の法人所得税の減額、戦略プロジェクトに対する最大15年間の法人所得税の免除、域内の人材に対する個人所得税の減税などの税制面での奨励策のほか、人材育成やR&Dなどに対するタイ特定産業競争力強化基金の設立、利便性向上のためのワンストップサービスの設置、入札の開始から建設プロジェクトの承認までの手続きを高速化するファストトラック制度のような税制面以外の奨励策も整備されている。
このEEC構想の成功のカギは、実行性を担保することである。来年、民政復帰の総選挙が行われる予定だが、現政権が選挙対策にEEC構想よりもバラマキなどのポピュリズム的政策を優先させる可能性もある。また、政権交代が起こり、ポピュリズム的な経済政策で大衆の支持を得てきたタクシン派が政権を握ることになれば、政策自体が頓挫する可能性もある。まずは、タイが国として、政策の一貫性へのコミットメントを示すことが、EEC構想の必要条件となるだろう。
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