本コラムではこれまで、国内のビーチリゾートとして沖縄本島を取り上げた (コーヒーベルトの北端にて、日本が誇るビーチリゾート、沖縄) 。しかし、沖縄の魅力は本島だけでなく、大小160に及ぶ離島にもある。そのうちの一つが、東洋一美しいと称される与那覇前浜ビーチ(※1)のある宮古島だ。
宮古島市(※2)の中核産業である観光業は、目下のところ絶好調だ。2016年度の入域観光客数は約70.3万人と、前年度比で約37%増加した(※3)。2015年1月に宮古島と伊良部島・下地島を結ぶ伊良部大橋が開通し、前述の与那覇前浜を含む美しい景観を望むドライブルートが観光資源として開拓されたこと、海外からのクルーズ船の宮古島平良港への寄港が増加していることなどが、その背景にありそうだ。特に後者については、2016年には不定期船含め86回の寄港により約12.5万人の乗客が宮古島を訪れており、これが入域観光客数の増加に寄与したものとみられる(※4)。2017年のクルーズ船の寄港は139回が予定されており、入域観光客数のさらなる増加が見込まれる(※5)。
宮古島市において、観光客の主な移動手段の一つはレンタカーである。2016年3月時点でレンタカー事業者数69、車両数1,748台であり、これは同市の自家用・事業用含めた自動車保有車両数約4.6万台の約4%に及ぶ(※6)。土地勘のない場所で、普段乗っていない不慣れな車を運転するのは不安なものだ。
そこで、宮古島市で大規模に自動運転技術の実証実験を採用するのはどうだろうか。自動運転技術は、昨今世界中で急速に開発が進められており、自動ブレーキや車線維持走行といった部分的な自動運転車は既に市販化されている。だが、利用者 (運転者) が応答することなくシステムが全ての運転タスクを実施する「レベル4」以上の完全な自動運転車は、まだ実用化に至っておらず、膨大な試験走行による安全性・確実性の担保が欠かせないとされる(※7)。
宮古島市の道路事情は、完全な自動運転車の試験走行に「やさしい」と考えられる。高速道路がなく片側2車線以上の道路も少ないことから、車線変更や合流といった複雑な運転操作をする機会が少ない。また、標高が最高でも100mほどと平坦な地形であることから、峠道のような傾斜のきつい上り下りやカーブなど見通しが悪い運転を強いられることもない。さらに、離島であることから物理的に外部と遮断されており、閉じられた空間である。このため、完全な自動運転車において考慮すべき条件が想定しやすい、「やさしい」地域と言えよう。「人と自動運転車の共生」に焦点を当てた、自動運転車の社会性 (あるいは自動運転車の受け入れられ方) についての実証実験を行うのに、適するのではないだろうか(※8)。
宮古島市にとっても、先駆的な試みが注目され、地域経済にとってプラスになると考えられる。仮に完全な自動運転車が先行して実現すれば、観光客だけでなく少子高齢化が進む同市市民の生活支援につながることにもなろう。宮古島市内にある下地島空港が、かつては民間航空大手のジェット機の離着陸訓練に使用されていたことも、何やら縁を感じる。自動運転車の訓練拠点としての宮古島にも、大いに魅力がある。
掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。