大和総研コラム

スチュワードシップ・コード改訂案

~顧客本位の業務運営に関する原則、フェア・ディスクロージャー・ルール、そしてコーポレートガバナンス・コードとの関係~
  • 経済
  • 掲載日 : 2017年4月24日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 横山淳

「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫」 (以下、SSコード) 改訂案が2017年3月に公表された(※1)。順調にいけば5月にも最終的な改訂がなされる見通しである。
改訂案には、議決権行使結果の公表の充実 (個別の投資先企業及び議案ごとの公表。指針5-3) など多くの重要な項目が盛り込まれており、株主総会シーズンを前に、その影響が注目されている。加えて、筆者は、金融庁が進める他の施策との関連についても着目している。

改訂案は、運用機関に対し、利益相反が生じうる局面を具体的に特定し、「顧客・受益者の利益を確保するための措置について具体的な方針」を策定・公表すること (指針2-2) や、ガバナンス体制 (独立した取締役会、第三者委員会など) の整備 (指針2-3) を求めている。また、機関投資家の経営陣に対して、スチュワードシップ活動のための組織構築・人材育成の推進も求めている (指針7-2) 。
筆者の目には、これらが、金融庁の推進する「顧客本位の業務運営に関する原則」 (以下、「原則」) (※2)とオーバーラップして見える。すなわち、「原則」には、金融事業者に対する「利益相反の適切な管理」 (原則3) や、顧客の最善の利益の追求、利益相反の適切な管理などを促進する「報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制の整備」 (原則7) が定められているのである。
もちろん、いわゆるフィデューシャリー・デューティーとも関連する「原則」と、SSコードとの関係は、簡単に整理できるものではない。しかし、運用機関がインベストメントチェーンを構成する一員として果たすべき役割・責務という点では、両者は無関係ではないだろう。

「他の機関投資家と協働して対話を行うこと (集団的エンゲージメント) が有益な場合もあり得る」 (指針4-4) と、集団的エンゲージメントを正面から取り上げていることも改訂案の注目点である。集団的エンゲージメントを巡っては、導入が予定されるフェア・ディスクロージャー・ルール (FDルール) との関係が気になる。
確かに、SSコードに基づくエンゲージメントは中長期的視点からの対話であって、FDルールが想定する足下の業績数値に関する早耳情報などとは異なるとの指摘もある。しかし、「将来」が「現在」の延長線上にある以上、中長期的視点からの対話であっても、足下の問題から全く無縁とは言えない。特に、集団的エンゲージメントが、機関投資家に共通の関心事を取り上げることが多いとすれば(※3)、対話の中で、近々に予定されるコーポレートアクションについて説明を求めたり、翻意を促したりすることも十分に考えられる。そこで、仮に発行会社が、未公表の重要な情報を集団的エンゲージメントの参加者のみに提供すれば、FDルールに抵触する可能性が高い。
集団的エンゲージメントにおいて対話された内容を、FDルールの観点からどのように取り扱うべきか、機関投資家のみならず、上場会社にとっても重要な課題となり得るだろう。

改訂案は、運用機関に対してSSコードの実施状況を定期的に自己評価し、結果を公表することも求めている (指針7-4) 。これはコーポレートガバナンス・コード (CGコード) が上場会社に求める取締役会の実効性評価 (CGコード補充原則4-11③) と一対をなすものと言えそうだ。
機関投資家と上場会社が、自己評価を通じてお互いに切磋琢磨するのであれば、大いに歓迎すべきことである。ただ、わが身に照らしても、形式主義や自己満足に陥ることなく自らを評価することは難しい。まして、対話相手における自己評価を他山の石として、自らの身を律することは、相当の難業となるだろう。


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