大和総研コラム

ポピュリズム政党のパラドックス

  • 国際
  • 掲載日 : 2017年3月22日
  • 大和総研ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト 菅野泰夫

旧知の英国人に突然、“実は昨年のEU離脱の国民投票の時にLeave (離脱) に投票したの”とカミングアウトされ驚いた。国民投票から既に9ヵ月、何をいまさらと思ったが、外国人として英国に住む私達家族に、申し訳ないという気持ちが抑えられなかったようだ。その知人いわく、“離脱に投票したことは、職場でも誰にも言えなかった”そうで、勇気を振り絞っての告白だったのかもしれない。

ブレグジットやトランプ米国大統領の誕生で、ポピュリズムの台頭が世界的に注目されている。特に最近の傾向として、経済が好調な国ほど、有権者が主要政党に背を向け、ポピュリズムに賛同するといわれている。知人は “国民投票後も英国の景気が良いというけど、給料も上がらず、家も買えない、NHS (無料国民医療制度) にいつ行っても長い列”と不満が絶えない。諸悪の根源をステレオタイプに“移民が増えたから”と頑なにその知人は信じているが、本当にそれだけだろうか ? 景気が悪い国であれば、現政権への不満が強まるのでポピュリズムへの傾倒は理解できるが、景気の良い国でこの矛盾 (パラドックス) が起きる原因を多くのエコノミストが必死に解明しようとしている。

パラドックスの原因のひとつは、非正規雇用者の増加だろう。ウィルダース党首率いる (ポピュリズム政党) 自由党の台頭が注目されたオランダでは、金融危機以降、急激に非正規雇用が増え、今や4人に1人 (若年層に至っては半分以上) を占める。名目の失業率は下がっているものの、職務保障も賃金も低い労働者が年々増加する構図は、どこかの国と重なるものがある。オランダの低中所得層の多くは、この5年間生活水準の向上を実感できず、堅調な経済回復の認識を共有できていないという。そこに失業手当や医療支出削減などの緊縮財政が追い打ちをかけ、標準的な勤労世帯は生活水準維持に苦心しているのが実態といわれている。ルッテ首相が推進した改革により、2016年末の失業率は5年来の低水準となる5.4%、経済成長率は2.3%とユーロ圏随一の安定感を誇るオランダでの話である。

フランスやオランダにおいて、実質賃金の低下を移民増加に帰結させるシナリオは、移民が集中する大都市圏を除く地方部では当てはまらない印象を受ける。それよりも、非正規雇用という質の低い雇用の増加が所得を押し下げているのを、移民問題にすり替えている印象すら受ける。また個人的には、失業率の高い若年層がSNSを多用しているため、緻密な政策論議よりもツイッターなどで扇動的な情報発信に勤しむポピュリズム政党からの影響を強く受けているのではと穿った見方もしてしまう。

3月15日に実施されたオランダ議会選挙では、議席を減らしたもののルッテ首相率いる自由民主国民党 (VVD) が第一党を死守し、自由党は第二党に留まった。ただVVDに限らず、選挙戦終盤に右傾化した政党が議席減をある程度食い止めた状況を見ると、今回の敗退をポピュリズムの失速と位置づけるのは時期尚早であろう。ポピュリズムのパラドックスが起きる原因の解明には、もう少し様子を見る必要がありそうだ。


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