昨年末に示された政府の平成29年度税制改正の大綱では、不動産投資信託 (リート) 等が不動産を取得する際の不動産取得税の課税標準の特例措置を2年間延長 (平成30年度末まで) するとともに、これまで適用外とされていたヘルスケア施設等及びその敷地についても減税の対象にすることが盛り込まれた。大綱に基づき税制改正法が成立・施行されれば、リートが有料老人ホームのほかリハビリ施設や病院などのヘルスケア施設を購入する際の不動産取得税の課税標準額が、2/5に軽減される。
リートとは、投資家から集めた資金で不動産に投資し、その賃料収入を投資家に分配する金融商品である。この投資する不動産をヘルスケア施設に集中させたリートのことを、ヘルスケアリート (ヘルスケア施設特化型(※1)) と呼ぶ。しかし、国内で上場しているヘルスケアリートは現在のところ3銘柄のみで、東証REIT指数に占める時価総額ウェートも0.3% (378億円) と小さい (2016年末時点) 。有料老人ホームを中心とした保有物件数も3銘柄合わせて50件程度(※2)である。超高齢社会を迎え医療・介護施設の不足が指摘される中、リートを通じた不動産取得にかかる税が軽減されれば、民間資金の活用によるヘルスケア施設の整備が進むと期待される。
諸外国では米国をはじめ、カナダ、英国、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、マレーシアなどでヘルスケアリートが上場し、個人や民間企業の資金が高齢者向け住宅や介護施設、病院、医療モール(※3)の整備に活用されている。特に公的な医療・介護サービスの提供体制が十分に整っておらず民間による施設整備が中心の米国では、資金調達手段としてのリートが重要な役割を担っているようだ。米国ヘルスケアリートの時価総額は、リート全体の1割 (約927億ドル、2016年11月末時点) を占める規模である(※4)。
国内でも高齢化による医療・介護施設の需要拡大が見込まれるため、ヘルスケアリートは投資家から注目されているが、施設利用者側から見た課題は少なくない。例えば、リートが保有する有料老人ホームの場合、施設運営者 (オペレーター) が自己所有した場合に比べて賃貸コストが割高になりやすく、コストは利用者に転嫁されてしまうことがある。また、施設所有者 (オーナー) であるリートの意向によっては、転用の可能性や、オペレーターの変更に伴うサービス内容や利用料の急な変更も懸念されるだろう。そもそも、入居時にオーナーがリートであることを知らない利用者も多いのではないだろうか。
もちろん投資家にとっても、施設利用者にとっても、多様な選択肢が増えることは望ましいことであるし、遅れが目立つ施設整備を、民間資金の活用で促進することも必要だろう。しかし、施設利用者が入居時に重視することは、質の高いサービスと安定した利用料である。投資家側からのメリットだけでなく、施設利用者側からのリスクについてもわかりやすく示し、混乱のない運営を期待したい(※5)。
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