大和総研コラム

インバウンドからの気付き

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2016年12月8日
  • 大和総研リサーチ業務部 主席研究員 兼 社会連携担当 岡野武志

今年もインバウンド旅行の人気は高く、訪日外国人旅行者数は既に2千万人を超え、昨年の記録を上回っている。一方、昨年7-9月期 (3Q) に1兆円の大台に乗せた訪日外国人の旅行消費額は、その後、伸び悩みが続いている (図表1) (※1)。報道などでも知られている通り、インバウンドの買物需要が縮小し、今年3Qの買物代の総額は、前年同期比で685億円ほど少なくなっている(※2)。金額的な影響は大きくないが、娯楽サービス費やその他の支出も減少している。旅行者数の17%増に比べると、飲食費 (+11%) や宿泊料金 (+7%) などの伸び率も相対的に小さい。

[図表1] 訪日外国人旅行者数と旅行消費額の推移

観光やレジャーを目的として来日し、滞在期間が短い旅行者は、買物代以外の旅行支出はそれほど多くない。また、自国の経済状況や為替水準の変化などにより、滞在期間中の支出を抑制した旅行者も少なくないものとみられる。1人当たりの旅行支出は、ピークとなった昨年3Qの18万7千円から、今年3Qには15万5千円に縮小している。しかし、日本の楽しみ方の重心が、量から質、モノから体験に移りつつあるとの見方もできる。旅行支出が縮小しても、インバウンド旅行全体の満足度は、「大変満足 (16年3Q:49.7%) 」と「満足 (同43.4%) 」を合わせると90%を超えている。

旅行者が「訪日前に期待していたこと」「今回実施した活動」「次回実施したい活動」を比較すると、「日本食を食べること」「ショッピング」「繁華街の街歩き」などは、訪日前の期待や今回の実施率に比べて、次回実施したいと思う比率は高くない (図表2) 。日本の生活の一部であり、旅行者の大半が接する商品やサービスには、それほど高い満足を提供できていないものがある可能性に気付かされる。これに対して体験型の活動には、「四季の体感」や「自然体験ツアー・農漁村体験」など、訪日前の期待に比べて、次回実施したいと思う比率が高い活動もみられる。インバウンド旅行への期待は、日本での滞在経験を経て、新たな価値や多様な価値に広がっている可能性があることも示唆される。

[図表2] 訪日旅行への期待 (16年3Q:複数回答)

スマートフォンなどを利用した口コミ情報が広がる昨今でも、これまでに体験した旅行者が少ない活動は、出発前に得られる情報が限られる。日本を訪れて、初めてその魅力や価値に気付き、次回への期待が高まるとすれば、インバウンド旅行の目的となる地域は、広く全国に潜在していることも考えられる。政府は、「地域資源を活用した観光地魅力創造事業」などにより、観光資源の磨き上げに向けた地域の取り組みを支援している(※3)。また、多様な関係者と連携して、地域の稼ぐ力を高める舵取り役として、日本版DMOの形成も促進している(※4)

日本版DMOには、11月2日時点で111件が候補法人として登録されている。しかし、全国に1,700を超える市町村があることからみると、このような取り組みは、緒に就いたばかりのようにも思える。インバウンド旅行者が、地域の歴史や伝統、生活や文化などを高く評価することで、地域に住む人々がその魅力や価値に気付くこともあり得よう。インバウンド旅行拡大を契機として、地域の姿やあり方を新鮮な視点で捉え直し、将来に向けた連携をさらに広げていくことが期待される。


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