大和総研コラム

トランプ大統領誕生に身構える欧州

  • 国際
  • 掲載日 : 2016年11月17日
  • 大和総研経済調査部 主席研究員 山崎加津子

11月8日の米大統領選挙でトランプ候補が勝利したことは、欧州でも大きな驚きをもって受け止められた。移民反対を掲げるフランスの国民戦線のルペン党首やオランダの自由党のウィルダース党首が快哉を叫んだ一方、EUとその加盟国の首脳はトランプ次期大統領に祝意を伝えつつも困惑を隠せないでいる。

欧州が懸念を抱いているのは、トランプ氏が既存のさまざまな権威をやり玉にあげてきた選挙戦中に、これまで米欧の共通認識と考えられてきた価値観をも批判してきたからである。人種差別の否定、自由貿易の推進、あるいはNATOを中心とした安全保障体制などがそれである。批判の対象は多岐にわたり、それらがすべて政策に結び付くわけではないとはいえ、欧州はトランプ氏が選挙戦で主張してきたことと、大統領就任後に打ち出してくる政策との間にどれだけの乖離があるのかを見極めようとしている。

トランプ氏が最初に取り組むのは、不法移民対策、オバマケアの見直し、雇用対策など内政に関する政策となろう。ただし、その根底にある「米国第一」という考え方は、欧州の経済や安全保障問題にも大きな影響を及ぼす可能性がある。例えば、米国における雇用増を目的に、不法移民の取り締まり強化に加えて、NAFTA (北米自由貿易協定) の見直しが言及されている。メキシコからの安い製品の流入阻止のため、高い輸入関税を課すとの主張が現実のものとなれば、メキシコに工場を置く欧州企業にも大きな打撃となる。

安全保障分野では、米欧は第2次世界大戦後、NATOの加盟国として協調行動をとってきた。ところが、トランプ氏は米国の軍事負担ばかりが大きいとNATOへの米国の貢献を見直すことに言及する一方、ロシアのプーチン大統領に対する親近感を表明している。米国とロシアとの緊張関係が緩和に向かうこと自体は悪くはないが、米国が欧州の安全保障から手を引くことにつながるのであれば、ロシアと隣接する欧州にとって心穏やかではない。

以上のような国際通商と安全保障の大きな枠組みが変化する可能性に加えて、欧州が懸念しているのは、欧州内でフランス国民戦線やオランダ自由党を筆頭に、移民排斥、EUなど既存の権威に対する反抗を主張する政治勢力が勢いづくことである。6月のブレグジットに続くトランプ大統領誕生によって、この流れが新たな政治の潮流とならないか懸念されるのである。

ところで、大統領に決まったあとのトランプ氏は選挙戦中とは打って変わって、過激な主張は控え、現実主義者であることを印象付けようとしている。英語の「トランプ」は「奥の手、切り札、頼もしいやつ」という意味だが、果たして名は体を表すのか、トランプ次期大統領の一挙一動が注目される状況が欧州でも継続しよう。


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