大和総研コラム

「7」がつく年はリスクがいっぱい

  • 国際
  • 掲載日 : 2016年10月20日
  • 大和総研経済調査部長 児玉卓

このところ、ハード・ブレグジットなる言葉を耳にする機会が増えている。6月の国民投票でEU離脱を決めた英国が、移民受け入れ制限を優先し、EU単一市場へのアクセスを喪失する形での離脱を選択する可能性が高まっているというのだ。「いいとこどりは認めない」というEUサイドの態度が不変であれば、英国はいずれ「移民かEU単一市場か」を選ばなくてはならないし、そもそも移民の受け入れを含む政策決定にかかわる自主権回復がブレグジットの要諦であったとすれば、ハード・ブレグジットはそれはそれで理に適った選択といえなくもない。

ただし、ここで思い起こされるのが、「失態」と評されることの多い、キャメロン前首相による国民投票実施の決定である。残留派であったキャメロン氏に国民投票の実施を決断させたのは、当時 (2013年1月) の政治状況であった。保守党内ではEU懐疑派が英国とEUの関係見直しを求める姿勢を強める一方、反EU色の強さゆえに党勢を拡大させつつあった英国独立党に、保守党支持者の票が流れるという懸念が強まりつつもあった。こうした事情が、キャメロン氏に失地回復策としての国民投票実施を決断させたのである。

今、似たようなことが起こっている可能性はないだろうか。メイ首相は、3月までにEUに対して離脱の意思を通告すると表明しているが、それは、2019年3月までにEUとの新たな関係の構築作業を終えることができるという目途が立っての表明なのだろうか。そうではなく、保守党内右派に突き上げられ、見切り発車を迫られたということはないだろうか。もとより、離脱交渉には膨大な事務作業とそれをこなすマンパワーが必要であり、メイ首相の従前の「交渉開始引き延ばし作戦」は致し方なしという見方が、実務家、専門家のコンセンサスに近かった。だからこそ、ハード・ブレグジットと3月までの通告には、一方ならぬ懸念を覚えざるを得ないのである。

もっとも、EUが沈みゆく巨艦であるとすれば、一刻も早い離脱こそが合理的な選択である。バラバラになるEUとの間で、新しい関係性の構築にどれだけ時間とマンパワーをかけても無駄なだけである。そこまで見越して早期通告に傾いたかどうかはともかくとして、大陸欧州は2017年、国政選挙が相次ぐ政治の季節を迎える。各地でナショナリズムが席巻し、EUの遠心力が一段と強まる可能性は低くない。そうした逆風を抑え込み、ドイツを中心としたEUが統合体としての強靭さを示すことができれば、そこから「ハードに」出ていく英国は負け組になる。そうでなければ、つまりEUが瓦解の道を辿りはじめるのであれば、離脱一番乗りの英国は、一転、勝ち組になる。どちらに転んでも、2017年の欧州政治が波乱に見舞われるであろうことは、リスクというよりも既にメインシナリオとみるべきであろう。

振り返れば、1987年には「ブラックマンデー」、1997年にはアジア通貨危機が起きた。2007年にグローバル金融市場を襲ったのは翌年のリーマン・ショックの前哨戦ともいえる「パリバ・ショック」であった。こうして、最後に「7」がつく年は、何かしら良からぬことが起きる。もちろん、震源地が欧州であるとは限らない。まず、年初には、トランプ氏が米国ホワイトハウスの主になるという、「テールリスク」がある。秋には中国の共産党大会が開かれる。これまでの反腐敗闘争は、習近平総書記の権力掌握を盤石にしたのだろうか。その反動が中国政治を一気に流動化させる恐れはないだろうか。リスクがいっぱいの2017年が、近づいてくる。


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