大和総研コラム

フェア・ディスクロージャー・ルールとアナリスト取材等ガイドライン

  • 経済
  • 掲載日 : 2016年10月4日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 横山淳

2016年9月20日、日本証券業協会 (以下、日証協) が「協会員のアナリストによる発行体への取材等及び情報伝達行為に関するガイドライン」 (以下、アナリストGL) を制定した(※1)。これは、昨今のいわゆる早耳情報と呼ばれるプラクティスや、金融商品取引業者の処分事例などを受けて、アナリストによる発行会社への取材や、アナリスト・レポート以外の手段による情報伝達のあり方などについての考え方をガイドラインの形でとりまとめたものである。

アナリストGLの原案が、7月に公表されて以来、筆者のところには、これと金融庁で検討が進められているフェア・ディスクロージャー・ルール (以下、FDルール) は同じものなのか、両者の関係はどのようなものか、といった質問が寄せられている。

厳密に言えば、両者は別のものである。

FDルールは、第一次的に情報を発信・伝達する上場会社 (発行体) をターゲットとしている。すなわち、上場会社が、投資判断に重要な影響を与えるような情報 (例えば、業績予想の大幅な修正など) で未公表のものを、特定の者 (例えば、大株主、アナリストなど) にのみ伝達すること (選択的開示) は原則として許されない。もし、選択的開示を行うのであれば、その情報が他の不特定多数の投資者にも同時に (あるいは速やかに) 提供されるよう必要な対応を行わなければならないという規制である。

このFDルールは、欧米では既に導入されているが、わが国では金融庁において検討が進められているものの、現時点では未だ導入されていない。

それに対し、アナリストGLは、日証協の協会員 (証券会社など) に所属するいわゆるセルサイド・アナリストを規制するものである。すなわち、セルサイド・アナリストに対し、どのような情報であれば上場会社に対して取材等を行ってよいか (行ってはならないか) 、どのような場合に、入手した情報について発信・伝達してよいのか (発信・伝達してはならないのか) などを示したガイドラインである。

このアナリストGLは、2016年9月に日証協によって導入された。

もっとも、アナリストGLは、発行会社や協会員ではない機関投資家 (バイサイド) のアナリストや運用担当者を規制するものではない。例えば、機関投資家に属するアナリストなどが、上場会社から直接情報を入手するようなケースが想定されるが、アナリストGLは、 (日証協のガイドラインという位置づけ上) 直接、こうしたケースをカバーしてはいない。

その他にも、上場会社を巡っては、機関投資家によるエンゲージメントや議決権行使、株主総会での説明・質疑、マスメディアによる取材など、様々なコミュニケーションの場面がある。これらの点を考えると、アナリストGLはFDルールを代替するものではなく、金融庁もアナリストGLの制定後もFDルール導入に向けた検討を続けるものと考えられる。

とはいえ、上場会社による情報伝達とアナリストによる取材等が、裏表の関係にある以上、それぞれを規律するFDルールとアナリストGLも全く無関係でよい、というわけにはいかない。例えば、アナリストが取材してもよい情報と、上場会社が伝達してもよい情報の間に一定の整合性がなければ、両者の円滑なコミュニケーションは成り立たないだろう。また、どのような場合に、その情報が不特定多数の者に提供された状態 (公表、公知) になったといえるのかについても、一定のコンセンサスが必要であろう。

その意味では、今後のFDルール導入に向けた検討の中で、アナリストGLが示す考え方は、一つの道標となり得るものだと言えるかもしれない。


このコラムと同じカテゴリの他のコラムを読む

年別

カテゴリ別