大和総研コラム

やや不透明感漂う海のシルクロード構想

  • 国際
  • 掲載日 : 2016年8月22日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 新田尭之

近年、中国は南アジア地域のインフラ開発支援を急速に強化している。例えば、長年の友好国であるパキスタンでは西海岸のグワダル港の建設に力を入れており、スリランカではコロンボ港の開発が一度中断したものの、今年3月に再開が認められた。モルディブでも3月に国際空港と首都マレを結ぶ橋の建設が着工した。直近では、8月8日にバングラデシュでパドマ橋の鉄道敷設プロジェクトの契約が締結されたという。

これらのインフラ整備プロジェクトは2013年に習近平国家主席が提唱した現代版シルクロード構想である「一帯一路」のうち、中国沿岸部から東南アジア、インド洋を経由して欧州へ向かう「21世紀海上シルクロード」に位置付けられる。中国側のメリットは、中国国内で過剰に生産した製品の輸出先の確保、エネルギー輸入の安定化・多角化、3兆米ドルを超える外貨準備の有効活用、人民元の国際化、などである。他方、資金・技術力の不足等からインフラ不足が常に悩みの種になっている南アジア諸国にとって、上記のようなインフラ開発は高成長の糸口をつかむチャンスとなり得る。

中でも、中国が特に注力する国の一つはパキスタンである。2014年に中国が設立したシルクロード基金の最初の融資先はパキスタンの水力発電所建設プロジェクトであった。その上、アジアインフラ投資銀行 (AIIB) の融資第1号となった案件の一つはパキスタンでの高速道路建設プロジェクトである。これらの事象のみで中国がパキスタンをとりわけ優遇しているとは言い切れない。しかし、中国―パキスタン間の経済回廊はシルクロード構想全体の中でも重要な一角を占める。インドとの間で領土問題を抱える中パはもとより安全保障面での結び付きが強い。さらに、エネルギー安全保障に関しても、パキスタンのグワダル港と中国の新疆ウイグル自治区のカシュガルを結ぶパイプラインが2017年に着工予定である。こうした両国関係を踏まえれば、中国がパキスタンのインフラ支援に一層力を入れてもおかしくない。

ただ、今後「21世紀海上シルクロード」が順調に進むかは不透明である。思い返されるのは、中国が先行してインフラ開発を進める東南アジアの事例である。例えば、インドネシアでの高速鉄道整備プロジェクトにおいて、中国は日本との受注競争に競り勝ったものの、書類不備等が原因で建設は遅延している。加えて、中国と領土問題を抱え、軍事衝突を繰り返した過去を持つインドの反発も懸念される。インドでは「21世紀海上シルクロード」の実態はいわゆる「真珠の首飾り戦略」 (中国が整備する港を結ぶとインドに掛けられた首飾りのような形状となる) だと警戒する向きも多い。インドが抱く疑念の中身とはすなわち、中国が有事の際に同国周辺の道路や港湾を軍事目的で利用し、インドを封じ込めるというものである。モディ首相もスリランカの国会で演説した際、「インド、スリランカ、モルディブ3国間の安全保障協力を他のインド洋地域に拡大する必要がある」と述べるなど、中国へ対抗する意思を強くにじませている。

中国は「一帯一路」構想の下、様々な国々でインフラ整備や経済統合を加速し、古代のシルクロードと同様、中国を中心とした広範な経済圏の構築を狙っているものの、事はそう簡単に進まないようである。


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