大和総研コラム

世界のマジョリティーとなる中流層

  • 国際
  • 掲載日 : 2016年7月28日
  • 大和総研専務理事 引頭麻実

先月、米国の広告大手であるオグルヴィ・アンド・メイザー社 (以下、オグルヴィ社) が「VELOCITY12」と題したレポートを発表した。オグルヴィ社は、ロンドンに本拠地を構える世界最大手の広告会社WPPの一角でもある。

このレポートは大変興味深い。これからの世界経済の牽引役は中流層であり、世界の中流層拡大への貢献度が大きい国ほど今後の成長が期待できる、と見ているようだ。中流層とは年収で4,000米ドル~40,000米ドル (購買力平価 (PPP) を基準) の所得者層を想定しているもよう。レポートではこうした中流層の成長が期待される上位12ケ国をVELOCITY12と名付けている。具体的には、インド、中国、パキスタン、インドネシア、バングラデシュ、ナイジェリア、エジプト、フィリピン、ベトナム、ブラジル、メキシコ、ミャンマーの順となっている。

レポートによると、世界の中流層は1980年~2015年の間で約10億人から約30億人へと増加し、2025年には49億人とさらに拡大すると予想している。また、世界の人口に占める中流層の比率は2015年の45%から2025年には61%とマジョリティーを占めるとし、経済や社会に対して大きな影響を与えることになると見ている。今後増加する19億人の増加のうちVELOCITY12の国々合計で約半分の10億人が増加すると予測されている。

どのような中流層が生み出されるのだろうか。例えば、アフリカにおいて携帯電話の普及率 (普及台数を人口で単純に除したもの) は、すでに80%を超えており、その約半分がスマートフォンとなっているもようであるなど、まだ中流層に属していない人々にもコミュニケーション手段があり、インターネットでつながり、情報を得られる環境になっている。この「情報を得られる手段を有する」という点で、新たに生み出される消費者としての中流層はある意味で供給者よりも優位な立場に立てることになるだろう。限られた財の中から選択するこれまでの姿から、ローカル企業とグローバル企業が供給する財の中から、自身で財を選ぶ、あるいは自分にあった財を探すという自律的な消費の動きが圧倒的に多くなるだろう。企業のいわゆる新興国市場に対する経営戦略も大きく見直さざるを得なくなるかもしれない。

さらにこのレポートでは、こうした中流層が厚みを増していく動きによって、格差は縮小していくだろうと分析している。ストックである富に着目すると、上位1%の人口に集中していく傾向は変わらず、格差は広がっていくものとみられる。一方で、フローの所得あるいは所得の分配という観点から見ると、中流層がマジョリティーとなっていくことで、世界はより平等の方向へ向かっていくのではないかと指摘しているのである。

中流層が世界のマジョリティーとなっていくことは、世界に対し、様々な課題を突き付けることになるだろう。経済政策の方向性や、社会の価値観など、これまで正しいと思っていたことについて、あらためて考えさせられることになるかもしれない。また、少子高齢化が進む日本の世界における消費市場のポジショニングは大きく低下することになるだろう。新しい社会と向き合うためには、それ相応の覚悟が必要になるだろう。ただし、その準備のために残された時間はまだある。今からでも、グローバルで起こる様々な変化を観察し、その本質を見極め、仮説を構築するのに遅くはない。今こそ、変化と正面から向き合う姿勢が求められている。


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