大和総研コラム

「増税先送り」という名の鏡に映り込むポピュリズムの影

  • 政治
  • 掲載日 : 2016年6月27日
  • 大和総研エコノミック・インテリジェンス・チーム シニアエコノミスト 長内智

安倍晋三首相は、6月1日の首相官邸での記者会見において、2017年4月に予定していた消費税率の引上げを2019年10月まで2年半延期すると表明した。消費増税を延期する理由として、首相は、世界経済が直面する下振れリスクに備えなければならないとし、「内需を腰折れさせかねない消費税率の引上げは延期すべき」と述べた。今回の消費増税延期の是非については深入りしないが、世界経済の下振れリスクに備えるために消費増税を延期すると決めた以上、政府に対しては、2019年10月までに経済再生を確実に実現し、世界経済の変動に左右されにくい強靭な経済環境を整備することが求められる。

他方、今回の消費増税を巡る動きの中で危惧されるのが、消費増税が政局の材料に利用されたことである。例えば、4月以降に、消費増税を巡って与野党の政治的な駆け引きが活発化したのは、7月の参議院選挙を見据えた政治戦術だと捉えることができる。歴史を振り返ると明らかなように、国民受けの悪い消費増税は選挙戦で強い逆風となる。1989年7月の参議院選挙では自由民主党 (自民党) が大敗して、いわゆる「55年体制」の成立以降はじめて「ねじれ国会」が生じたが、この主因の1つが1989年4月の消費税導入であった。その後、現在に至るまで、参議院で単独過半数を獲得した政党は1つも存在しない。1997年4月の消費増税後の参議院選挙でも、自民党が大敗して橋本政権が退陣し、このことが1999年以降の自自公 (自民、自由、公明) 連立政権につながった。

したがって、もし消費増税の是非に関する問いが、「選挙戦で勝つために消費増税を選択すべきか」というものであったならば、その答えは十中八九「消費増税を先送りすべき」となるだろう。なぜなら、現在の日本では、国民受けを狙ったポピュリズム (大衆迎合主義) 的な行動が、選挙戦において有効な武器となるためである。ただし、ポピュリズムというのは、民主主義という「光」から決して切り離せない「影」の存在であることから、政治家の姿勢をいくら非難したとしてもポピュリズム政治の問題を解消することはできない。今後必要なことは、「増税先送り」という名の鏡に映り込むポピュリズムの影をできる限り小さくすることだと考える。具体的な対策としては、かつての自民、公明、民主の間で締結された三党合意のように、与野党間で消費増税に関する政策協調を図ることが重要なカギとなる。

民主主義の起源は、周知の通り古代ギリシャとされている。翻って近年のギリシャを見ると、政府が国民に大盤振る舞いした結果、政府の財政状況が急速に悪化して債務危機が発生した。銀行からの預金の大量流出を防ぐために、銀行の営業停止や預金の引き出し規制が行われるなど、国民生活や企業活動は大きな混乱に陥った。今もギリシャでは反緊縮を掲げるポピュリズム的な政党の台頭によって、財政再建の取り組みが遅れており、経済正常化の目途も立っていない。現在、わが国は、こうしたギリシャの惨状を他山の石として、「国家百年の計」という視点から、消費増税の問題を改めて見つめ直す必要があるのではないだろうか。


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