2016年4月22日、オランダのアムステルダムにて、ユーロ圏財務相会合 (ユーログループ) が開催された。
この会合で目玉とされたのは、むろんというべきか、国際的な租税回避の問題である。
しかし、もう一つ、重要な議題があった。それが、銀行規制におけるソブリン・リスクの見直しの件である。
ここで議論された二つのオプションは、大口与信規制の見直しと、自己資本比率規制の見直しである。
前者の大口与信規制とは、銀行による単一の先への与信に「自己資本の25%」という上限を設けるものである。しかし、目下、ここでいう「与信」には、ソブリン債の保有、すなわちソブリンへの与信は含まれていない。この取扱いを見直し、ソブリン債の保有も大口与信規制上の「与信」に含め、例えば自己資本の25%という上限を設けるべきではないかという議論である。
後者の自己資本比率規制の見直しとは、自国通貨建て (欧州ではEU圏内の通貨建て) のソブリン債の保有をリスク・フリー (リスク・ウェイト0%) とすることが許容されている現行規制の取扱いを見直し、一定のリスク・ウェイトを課すべきではないかという議論である。
これらの議論の発端はともに、当然ながら、2010年の欧州ソブリン危機である。具体的には、南欧諸国の銀行にみられる高いソブリン債への依存度が危機を深刻化させたこと、そして規制上リスク・フリーとされているソブリン債の発行体であるユーロ圏諸国がデフォルトの危機にさらされたことである。
報道によると、今回のユーログループでは、ドイツとオランダがソブリン・リスクの見直しを提案したものの、イタリアやスペインがこれに反対しているという(※1)。また、欧州委員会の金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当であるジョナサン・ヒル氏 (英国) は、これらの議論はバーゼル銀行監督委員会に委ねるべきであると述べたという(※2)。
欧州中央銀行 (ECB) 銀行監督委員会の初代委員長であるダニエル・ヌイ氏 (フランス) は、昨年10月の日本経済新聞によるインタビューにて、とりわけ大口与信規制の見直しを通じたソブリン債の保有規制の導入の必要性を力説していた(※3)。
また、バーゼル銀行監督委員会においても、目下、ソブリン・リスクの見直しが議論されており、2016年中に何らかの指針が示される見込みである(※4)。
このように、ゆっくりとではあるが、確実に、ソブリン・リスクの見直しの動きは進んでいる。さほど遠くない将来、日本においても何らかの対応が迫られる可能性が高まりつつある。
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