大和総研コラム

「残留」か「離脱」か、国民投票を前に岐路に立つ英国

  • 国際
  • 掲載日 : 2016年3月7日
  • 大和総研経済調査部 研究員 新居真紀

キャメロン首相が国民投票実施の前準備として15年11月にEUに対して要求していた改革案が、2月18~19日のEU首脳会議において大筋で合意された。主な内容は、①EU域内からの移民労働者が英国経済に影響を及ぼす場合は緊急措置として最大7年間流入を制限でき、社会保障給付についても居住を始めてから4年間まで制限することを認める、②EUの「統合の深化」に加わらない権利を認める、③欧州中央銀行 (ECB) の決定が非ユーロ圏のEU加盟国に及ばないことを認める、④EU域内の規制緩和を進め企業競争力を高める、の4点である。

改革案合意をめぐっては東欧諸国の反対があったにもかかわらず、EUは英国のEU離脱を回避するために英国の「わがまま」を概ね聞き入れた格好となった。英国の経済規模はEUの中でドイツに次いで大きく金融業に強みがある。このところの実質経済成長率が堅調に推移していることも、EU経済の安定に寄与しているといえる。英国が離脱すれば、EUにとっては外交上も他の経済大国とのパワーバランスという面で大きな痛手となろう。

一方、EU内で改革案の承認を得ることによって国民投票でEU残留に導くための弾みをつけたいキャメロン首相であったが、今回の首脳会議で改革案は合意に至ったものの、現時点で残留派と離脱派は二分している。背景には深刻化するテロや難民等の問題がある。報道によれば、保守党の下院議員のうち3分の1が離脱を支持しているという。世論調査でも今年に入ってから離脱派の勢いが増し両者は拮抗している。キャメロン首相は度々残留支持を訴えているが、6月23日の国民投票までに残留に導けるかどうかは、未だ意思を決めかねている約2割の有権者の動向次第となる。

英国の世論が割れ、先行きの不透明な中、対ドルのポンドは改革案の合意後に7年ぶりの安値をつけ動揺が広がった。英国がEUを離脱した場合は各国とのFTA締結のための新たな交渉が必要となるほか、保護主義が台頭する可能性も考えられる。また、過度な移民流入の制限はこれまで移民で補ってきた労働力が不足する事態にもつながる。こうして国民投票で英国民が離脱の道を選択すれば、英国の経済がダメージを受けるリスクが高まり自らの首を絞めるだけでなく、EU経済にもその影響が波及することが想定される。しかし、離脱派と残留派が拮抗する中で、こうした不安定な状況は少なくとも国民投票までは続くとみられる。15年の総選挙で、移民政策や債務危機の負担に反発する英国独立党 (UKIP) の台頭が脅威となって国民投票を公約に掲げたキャメロン首相だが、その責任は重い。


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