フィリピンのミンダナオ島で進められてきた和平プロセスが再び暗礁に乗り上げた。
元より、同島ではイスラム系武装組織であるモロ・イスラム解放戦線 (MILF) が40年以上にわたってフィリピン政府と対立してきた。他方、マレーシア政府や日本政府などの仲介により両者の和平交渉が進められ、2014年3月27日にはようやく包括和平合意文書の調印にこぎ着けた。この結果、現行のムスリム・ミンダナオ自治区 (ARMM) よりも強い自治権を持つバンサモロ自治区が設立される運びとなった。その後、バンサモロ自治区の設立に必要とされるバンサモロ基本法は上下院で審議が行われたものの、一部の議員が自治権拡大に反対したこともあり、採決に至らないまま総選挙前の国会会期を終えた。このため、アキノ政権下で同法が成立する確率はほぼゼロまで低下し、上記の和平プロセスは停滞を余儀なくされた。
次期政権がミンダナオ和平に関してどのような態度で臨むかは不透明である。フィリピンの反政府イスラム系武装組織が「イスラム国」 (IS) に相次いで支持を表明しており、ミンダナオ島で貧困や孤独等の問題を抱える人々がISの過激思想に感化され、テロを引き起こしてしまうリスクが懸念される。国家統計調整委員会 (NSCB) によれば、ARMMの2012年時点の貧困世帯の割合は全国平均の19.7%を上回る48.7%までに及ぶ。さらに、同島では長年に続く紛争により死者は約12万人、避難民は200万人に達したとされる。これらの点を踏まえると、同島で暮らす貧困層や紛争孤児などがISの思想に感化されてテロを引き起こす潜在的なリスクは比較的高いように思える。
こうした状況を踏まえれば、フィリピン政府は上記の和平プロセスに取り組み続けるのが得策であろう。今後、バンサモロ自治区が誕生することになれば、治安改善を期待した投資がミンダナオ島に流れ込み、同島の産業発展に寄与すると期待される。
他方、残念ながらISの思想がフィリピン国内に流入することを完全に防ぐのは難しい。ただし、ガバナンスがある程度強い政府があれば、テロ計画を事前に察知するなどの方法を取って、過激派の行動を食い止められるケースもあり得る。したがって、これまで和平交渉の仲介者であったマレーシア政府と日本政府は、バンサモロ自治区で高いガバナンスが可能となるよう、引き続き支援する必要があろう。
掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。