大和総研コラム

FinTechは既存金融機関にとって脅威となるか

  • 経済
  • 掲載日 : 2016年2月17日
  • 大和総研経済環境調査部 主任研究員 町井克至

金融とITを融合させたFinTechという言葉が、日本でも2015年から頻繁に聞かれるようになった。FinTechの導入によって革新的な金融サービスが創出され、金融機関以外の企業が新たな金融サービスを提供する動きが世界で見られる。米国、英国ではFinTechに関する議論が2014年から活発化しており、1年ほど遅れて日本にも飛び火した格好だが、果たしてFinTechは既存の金融機関にとって脅威となるのだろうか(※1)

前提として、金融機関が提供するサービスは各種あるものの、その主な特性 (機能) は次の3点に要約されると考えられる。

  • (1)資金の出し手・受け手に関する大量の情報収集・処理・提供
  • (2)資金の授受を実行可能とする基盤 (インフラ)
  • (3)信頼性の高い資金管理

一方、昨今FinTechの報道等が増え、注目が高まってきた要因を整理すると、その特徴は次の2点と考えられる。

  • (A)金融サービスの自動化・低価格化を追求するような技術
  • (B)金融サービスにおける堅牢性・信頼性を確保するような技術

(A) は、AI (人工知能) 、ビッグデータ分析、大容量データが送受信可能な携帯通信網、携帯型高機能デバイスなどが該当する。これらを活用することで、例えば (1) に関連するサービスでは、広範な市場情報を瞬時に分析したレポーティング、与信審査の高速化、既存の金融機関では融資が難しい信用力の低い中小企業と融資に関して積極的なリスクテーカーとの直接的なマッチング、スマートフォン・タブレットによる安価な資産管理や決済基盤の形成等を実現している。

もう一つの (B) の代表は、ブロックチェーン(※2)である。これまで、金融機関の (2) 、 (3) の特性は、金融機関自身が堅牢な基幹システムを構築して国際銀行間通信協会 (SWIFT) などと連携すること、各国政府が厳しい規制下に置くことなどによって、技術的・制度的な信頼性が担保されてきた。ブロックチェーンでは、計算機同士の計算と連携によって、確実な資金の授受のために必要となるシステムの高い堅牢性・信頼性を担保する。例えば、より安価な海外送金の実現など、既存のサービスを技術的にリプレースする可能性がある。

このようにFinTechの2つの特徴は、これまで金融機関が実現してきたものとは異なる革新的な方法で、金融機関の3つの特性に基づく既存の金融サービスを代替しようとしている。とりわけ (B) の特徴は、既存の金融機関の中心となる機能の一部を脅かす可能性を想起させる。

逆に言えば、例えば既存の金融機関がブロックチェーンを適切に活用すれば、大幅にコストを削減できる可能性もある。既に、ブロックチェーンを開発する米R3 CEV社を中心に邦銀を含む世界の大手銀行40行以上が連携したコンソーシアムが組成されている(※3)ほか、Linux Foundationによる国際的なプロジェクト“Hyperledger Project”には、R3 CEV社やSWIFTが参画して活動している(※4)

一般的に堅牢な金融システムが整備されていない多くの新興国にとっても、FinTechの (B) の特徴は魅力的に映るだろう。FinTechは、そのような新興国のニーズを先取りして導入が進み、金融サービスを変革していく可能性がある。将来、新興国発のFinTech型サービスが、先進国の金融機関にとって脅威となる日が来るかもしれない。

  • ※1 それぞれ以下参照。
    米国:FINOVATEウェブサイト http://finovate.com/
    英国:Government Office for Science, “FinTech futures: The UK as a World Leader in Financial Technologies”
    日本では、経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会 (FinTech研究会) 」、金融庁「金融審議会 決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」などで議論されている。
  • ※2 ネットワークに接続した複数のコンピュータで取引記録などの台帳を共有することで、帳票の改ざんなどを防ぎ、安全かつ確実な取引を担保する仕組み。もともと仮想通貨ビットコインの基幹技術だが、その機能は仮想通貨に限定されておらず、幅広い用途への適応が期待されている。
  • ※3 R3 CEV, “R3’s distributed ledger initiative grows to 42 bank members and looks to extend reach to the broader financial services community”, December 17, 2015
  • ※4 Linux Foundation, “Linux Foundation Unites Industry Leaders to Advance Blockchain Technology”, December 17, 2015

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