米国滞在中に、テレビを見ていたら“2015年10月21日”は1985年の同作品のパートⅡで描かれていた30年後の“未来”に当る年であったことに気づかされた。2015年の今現在の“現実”は同作品の映画の世界にどれだけ近づけたのだろうか ? 確かに興味はつきない。米国の国防高等研究計画局 (Defense Advanced Research Projects Agency: DARPA) は、「遠隔地での会議を可能とするビデオ会議、声と指紋で人物を特定する認証システムなど、2015年にすでに実用化されている技術がある一方、空中浮遊のスケートボード、空飛ぶ自動車、自動車のトランク程度の大きさの核融合炉など“ゲーム・チェンジ”を可能とするような技術については依然空想の世界に存在するに過ぎない」としている(※1)。
ふと現在、話題沸騰中のFinTech (ここでは英国政府(※2)が定義するコグニティブ・コンピューティング(※3)、ビッグデータ、モバイル・ペイメント、デジタル・カレンシー) に考えを巡らせた。30年前とはいかないが、偶然にも5年前の2010年10月21日にローマで開催された欧州の大手金融機関のリテール部門担当の役員・部長クラス数百人が一堂に会し、ある程度成功を収めている事例をもとに議論を行うセミナー(※4)に参加した時のことを思い出した。当時の資料を振り返ると、現在挙げられているモバイル・ペイメント、ビッグデータなど“ゲーム・チェンジ”を予感させる技術があったものの、それをどのように取り込むか試行錯誤していた様子がうかがえた。
ただし、同セミナーで議論が進展するにつれ、“顧客”に論点が絞り込まれていった。特に、各金融機関が、その技術に基づいたサービスを積極的に活用する“Self-service型”の顧客がマスとして今後存在していくか、そこに議論の中心が移っていった。その条件にあてはまる国として新興国であるトルコが挙げられ、同国の金融機関から積極的に新しいサービスを活用する年齢層が増加しているとの報告があった。
確かに、5年前から比較すると格段に進歩した技術をベースとするFinTechを活用する機会を逃すことは、金融機関、新規事業者、消費者、政府等の様々な関連当事者にとって最大のリスクと言えるかもしれない。しかし、積極的にFinTechベースのサービスを活用する顧客層が増えるか、あるいはいかに増やしていくかは、金融機関の経営にとって古くて新しい問題と言えよう。
最初に紹介したDARPAの資料では、将来予測として「タイムトラベルのテクノロジーの実用化が間近でも、国家安全保障上の理由で機密にされてしまうであろう」としている。既存の主要なグローバルな金融機関を凌駕するFinTech企業あるいはデジタル・カレンシーなどが実用化した場合には、FinTech自体ではなく、例えば規制する側のRegTechも必要となろう。金融の分野だけでなく、これまで予期しなかった関連する様々な分野に○○Techが必要となってくる可能性がある。FinTechが“ゲーム・チェンジ”の技術となるためには、まだまだ様々な要素を検討する必要がありそうだ。
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