大和総研コラム

ブラジルのどこが駄目なのか ?

  • 国際
  • 掲載日 : 2015年7月16日
  • 大和総研経済調査部 アジアリサーチ・ヘッド 児玉卓

リーマン・ショックを予言したといわれるニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授が、米国の利上げの新興国へのインパクトに関する論考を発表している(※1)

教授は総じて、楽観的である。例えば2013年の“taper tantrum”の肝は、それが市場や新興国当局者にとってサプライズだったことにあるが、今はそうではない。利上げはとうに織り込まれており、少なからぬ新興国は引き締め気味の金融政策などの防御策を講じている。また、2013年当時と比べ、新興国の株価も債券価格も為替レートも下がっており、一段の大幅調整の必然性は乏しい。そして多くの新興国は、柔軟な為替制度を採用し、外貨準備を積み上げて、ドル建て債務への依存を減らしており、金融システムの健全化が進んでいるというのがルービニ教授の診断である。

といって、新興国経済が万全だというわけではない。上記のようなファンダメンタルズの改善が進んでいない国もあり、それらにとっては米国の利上げが激震となる可能性があるという。そうした危ない国として名指しされている筆頭が、ブラジルである (他にロシア、ベネズエラ、南ア、アルゼンチン、トルコ) 。

教授によれば、「米国が量的緩和を始めても、やめても、文句を言う国」であるブラジルは、「金融政策も財政政策も、信用規制もユルユルにしてきた付けを払う格好で、今、それらすべてを引き締めざるを得なくなっている」。リセッションと高インフレの併存が見込まれる中、米国の利上げが大きな脅威になる可能性があるというわけだ。

以上の論法の大枠に関して言えば、文句をつける余地はあまりないように思える。ただ、いささか物足りなくもある。例えば、財政政策も信用規制もユルユルであったなら、何故、その最中の2014年の成長率はほんの0.1%でしかなかったのか。もっと言えば、2012年から2014年までの平均成長率が1.5%に過ぎないのは何故なのか。2015年にマイナス成長が予想されているのも、財政・金融政策が引き締められたからというよりは、こうした中長期的な成長力低落の一断面ととらえるべきではないのか。

ブラジルについては、筆者も間違えた。この国は「レアル・プラン」によってハイパー・インフレを退治した後も、比較的高い政策金利を維持し、インフレ再発防止に腐心するとともに、外貨準備の蓄積に邁進し、債務の長期化、レアル建てへの転換を図ってきた。実際、ブラジルはルービニ教授のいう「金融システムの健全化」を進めてきた代表格なのである。そして、こうしたファンダメンタルズの強化、中でもハイパー・インフレの克服が、2000年代半ば以降の成長加速の土台であったというのが筆者の見立てであった。しかし、そうであれば、やはり、その後の低迷の説明がつかない。

ブラジル経済の長期低迷との関連で、しばしば指摘されるのが、税率の高さ・税制の複雑さ、インフラの脆弱さなどからなる、いわゆる「ブラジル・コスト」の存在である。しかし、これも最近降って沸いた話ではなく、「ブラジル・コスト」が高成長を阻むのであれば、2000年代後半の同国経済の好調が説明できなくなる。

これよりはもっともらしいのが、中国との共振である。中国の資源爆食型の高成長とその鈍化というスイングがブラジルの成長率変動に呼応しているという見方である。これはおそらく部分的には正しい。しかし、ブラジルは財・サービスの輸出のGDP比が10%強に過ぎない、内需依存の国であり、やはり長期停滞を十分には説明しない。

現在、筆者は、近年の停滞が異常なのではなく、2000年代後半の高成長が、同国としては例外的な時期にあたっていたのではないかという考えに傾きつつある。当時の高い成長の源泉を「金融深化」に求めるのである。わかりやすいのは住宅である。2000年代の初頭、多くのブラジルの人々にとって銀行サービスは無縁のものであり、住宅は基本的にキャッシュで買うものだった。つまり住宅の購入層とは、相応のキャッシュを持つ家計に限定されていた。この状況をモーゲージの普及が一変させる。住宅の購入層が、少なくとも潜在的な裾野という意味では劇的に拡大するのである。金融深化に触発された住宅、さらには自動車をはじめとした耐久財需要の爆発的な拡大期が一巡したと考えれば、色々な辻褄が合う。だから、ブラジルの長期停滞が続くということにはならないが、同国が成長再開を果たすためには、おそらく金融以外のルートを探さなければならない。


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