先月開催されたG7エルマウ・サミット (ドイツ、2015年6月7~8日) では、多くの経済的及び政治的諸課題に対処するための議論が行われた。その中の一つは「気候変動」 (日本では地球温暖化という) であった。G7にとって気候変動は、同サミットの首脳宣言 (外務省仮訳)(※1)の前文で触れられていることからもわかる通り、「地球の将来を形成する上で特別な責任」を感じている極めて重要なものである。
同首脳宣言の中の気候変動に係る部分では、気候変動枠組条約 (UNFCCC) 第21回締約国会議 (通称、COP21:2015年12月パリで開催予定) において、全ての締約国に適用される法的文書を採択する強い決意が述べられている。
具体的には、「世界全体の温室効果ガス排出削減目標に向けた共通のビジョンとして,2050年までに2010年比で最新のIPCC提案の40%から70%の幅の上方の削減とすることをUNFCCCの全締約国と共有することを支持する」と宣言されている(※2)。
法的文書のベースになる国ごとの準備書類は「約束草案」と呼ばれ、G7の中で日本だけが未提出 (現時点) であるが、安倍総理は政府原案という形で同サミットに間に合わせて面目を保った。提出が遅れている理由は、震災で環境・エネルギー政策を見直さざるを得なかったからだが、今月中にはUNFCCC事務局に提出予定である。
我が国が約束草案 (政府原案) に記した温室効果ガス (GHG) 排出削減目標は、2030年度に2013年度比26.0%削減するものであり、2050年世界半減、先進国全体で80%減を目指している我が国の長期目標を前提にした数値となっている。ただし、長期目標を達成するまでの道のりは険しい (図表) 。高度経済成長期等を経て、これまで一貫して増加してきた排出トレンドを2020年までに減少に反転させ、その後はさらに削減速度を上げていく必要があるからだ。
あまり注目されていないが、同首脳宣言の気候変動部分の最後で、環境投資にインセンティブを与えるため、「世界経済全体に炭素市場ベースの手法や規制手法などを含む効果的な政策と行動を適用するとの長期的な目標にコミットし,他国に対して,我々に加わるよう要請する」としている。
炭素市場ベースの手法は、キャップ&トレード型の排出量取引制度等を、また規制手法は、石炭火力発電に対する二酸化炭素貯留・回収技術 (CCS) の義務化等をそれぞれ指すと考えられ、これらの手法の導入によって投資インセンティブを高めることを意図していると思われるが、いずれの政策も我が国には国家レベルでは導入されていない(※3)。我が国がGHG排出量を2050年に80%削減するには、同首脳宣言の内容を参考に官民がさらに知恵を出し合い、有効な政策を立案していく必要があろう。
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