大和総研コラム

アジアインフラ投資銀行と中国のソフトパワー

  • 国際
  • 掲載日 : 2015年4月16日
  • 大和総研経済調査部 アジアリサーチ・ヘッド 児玉卓

アジアインフラ投資銀行 (AIIB) をめぐる様々な議論がメディアを賑わす中、ハーバード大学のケネス・ロゴフ氏が4月6日、“Will China’s Infrastructure Bank Work ? ”と題する論考を発表し、AIIBの在り方に関する、いくつかの根本的な疑問を投げかけている(※1)。かつて、IMFのチーフエコノミストを務めた経験を持つ同氏は、そもそも国際金融機関の仕事ぶりを高くは評価していない。特にダム建設のような巨大なインフラプロジェクトに際しては、その経済効果を過大評価し、コストを過小評価することで、往々、失敗してしまう。同様のリスクにAIIBが直面すると述べている。そして、途上国の成長の障害は、多くの場合投資資金の不足にあるのではなく、被投資国の制度の未熟さや稚拙なガバナンスにあると指摘している。グローバルマーケットに流動性があふれている昨今、カネは希少財ではないとして、例えばADB等のみでは対応不能な、アジアの膨大なインフラ需要を賄うために、AIIBは有用といった、量に着目した見方を一蹴している。AIIBに対する評価は、どれほどの金額をプロジェクトに投入したかではなく、どのようなプロジェクトを選択し、それらをどう育てたかで決まる、というわけである。

カネが希少財ではないかどうかは議論のあるところだろうが、AIIBの設立に際し、さしあたって期待すべきが、量的拡大よりも、インフラプロジェクトの質の向上であることは確かであるように思われる。例えば中国が二国間形態で行ってきた途上国におけるインフラプロジェクトを、AIIBが取って代わることで、懸案の環境や人権への配慮といった問題が改善する可能性がある。プロジェクトのファイナンス主体としての中国の競合相手がADB等であれば、中国が融資金利を引き下げるなど、好ましくない競争を誘発する可能性があるが、 (中国自身が主導する) AIIBの設立により、こうしたリスクが低下すると考えられるのである。

もちろん、そのためにはAIIBのガバナンスがカギになるわけだが、最早、この点にかかわる過大な懸念は無用であるかもしれない。中国にとってAIIBが国益増進の手段であることは (米国にとってのIMFや世銀と同じく) 確かであろうが、中国がAIIBを自国の「機関銀行」と位置付けているのであれば、欧州勢の参加を歓迎したり日本に参加を呼び掛けたりすることは、その趣旨と矛盾する。恐らく、少なくとも欧州勢の参加が決まった現時点で、中国にとってAIIBは自国のソフトパワー増強の象徴であり、その一段の拡大の手段という位置付けが固まったのであろう。中国はADBにも匹敵するポテンシャルを有する国際金融機関の盟主という地位を、国際社会における自国の実力に見合った生存空間の獲得と位置付けているものと推察される。その地位を貶めるリスクを冒すことには慎重を期すに違いない。

もっとも、こうした中国の姿勢と、同国がAIIBを人民元国際化戦略の一環に位置付けることとは必ずしも矛盾しない。恐らくここに、米国が譲ることのできない一線がある。米国にとって、現在の国際金融システムの要諦はドルが基軸通貨だということにある。ほんの小さな一歩であれ、それに対する挑戦は大きな脅威と認識されているはずである。これがAIIB参加の是非をめぐる、欧州勢と米国との決定的な差であると考えられる。基軸通貨国であるという巨大な既得権がないために、欧州諸国は中国の台頭を等身大で受け止め、それにふさわしい生存空間を与えることにやぶさかではないという姿勢を示すことができたのであろう。

さて、日本はどうすべきか。答えは自明であるように思えるのだが。


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