大和総研コラム

「木を見て、森を見ず」に陥らないように

コーポレートガバナンス・コード雑感Ⅱ
  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2015年4月2日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 横山淳

2015年3月5日、「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方 コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」 (以下、コード原案) がとりまとめられた。6月の適用開始に向けて、東京証券取引所による上場制度の見直しなど、各方面で対応が進められている。

もっとも、筆者には、最近、気になることがある。コーポレートガバナンス・コードに対する発行会社の次のような対応につき、意見を求められる機会が増えたのだ。

「とりあえず『開示』が求められる11の諸原則(※1)から対応を始めよう。」

これには若干、説明が必要だろう。

コード原案は、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」 (遵守・実施するか、説明せよ) の手法を採用している。従って、コード原案が定める規範を「コンプライ」 (遵守・実施) しない場合には、その理由などを「エクスプレイン」 (説明) 、すなわち「開示」しなければならない。

他方、コード原案が定める規範を「コンプライ」しているのであれば、原則、「エクスプレイン」は不要である。ただし、規範の中には、特定の事項を「開示」することを求めているものがある。これらの規範を定める諸原則については、「コンプライ」するのであれば、開示が求められる事項を「開示」しなければならず、「コンプライ」しない、すなわち、開示が求められる事項を開示しないのであれば、開示しない理由を「エクスプレイン」=「開示」しなければならないことになる。

先の対応は、「コンプライ」するか否かにかかわらず、何らかの「開示」が必要となる諸原則は、他の諸原則よりも優先順位が高いという意識から出たものだろう。

しかし、筆者には、その言い回しに、「人目に触れる部分だけはお化粧して、他は後回しでよい」といったニュアンスを感じずにはいられない。

コード原案は、「基本原則」、「原則」、「補充原則」の三層構造となっている。私見では、このうち、「基本原則」は「総論」として、「株主の権利・平等性の確保」、「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」、「適切な情報開示と透明性の確保」、「取締役会等の責務」、「株主との対話」という抽象的・普遍的な規範を定めている。他方、「原則」、「補充原則」は「各論」として、「基本原則」の規範を実現するための、より具体的な方策・手続である「方針策定」、「体制整備」、「情報開示」などを求めているように思われる。

確かに、しっかりとした「経営理念」と、それに基づく「コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針」を持ち、それを具現化する体制を既に構築している会社であれば、「各論」から論じることにも合理性はあるだろう。しかし、そうでない会社の場合、「総論」を無視した、小手先での「各論」対応で適切なコーポレートガバナンス体制が整備できるとは思われない。それに、形式的な文言・記載よりも趣旨・精神を重視する (「コード原案」の) 「プリンシプルベース・アプローチ」とも相容れないだろう。

もちろん、これは会社だけではなく、株主・投資者についても同様だろう。「コード原案」が、株主・投資者に対して「機械的に評価することは適切ではない」 (前文12) と釘を刺しているのも、「総論」を無視して、「各論」のみにこだわることを戒めたものだろう。

ともあれ、筆者は、自戒の意味も込めて、こう答えることにしている。

「『木を見て、森を見ず』に陥らないように」


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