大和総研コラム

衡平性指標に基づく排出削減目標の目安

  • 環境
  • 掲載日 : 2015年3月18日
  • 大和総研環境調査部 主任研究員 大澤秀一

国際社会は、地球温暖化を防止するため「国連気候変動枠組条約」 (UNFCCC)(※1)を結び、産業革命以降における気温上昇を2℃以内に抑えるという“2℃目標”を掲げて、温室効果ガス (GHG) の排出削減などに取り組んでいる。2015年末に開催が予定されているUNFCCC第21回締約国会議 (COP21) は、京都議定書に続く2020年以降の新しい国際協定の採択が見込まれているため、大いに注目されている。

新しい国際協定の実効性を高めるために、COP21に先立ち、各国は排出削減の数値目標などを盛り込んだ「自主的な約束草案」 (INDC)(※2)を提出することが求められている。INDCは、各国の異なる事情を背景としつつ、「共通だが差異ある責任及び各国の能力の原則」 (CDBR-RC)(※3)を反映することとされているが、2℃目標の達成にできるだけ整合することが望ましいと考えられる。

気候変動に関する科学論文を整理・評価した「気候変動に関する政府間パネル」 (IPCC) の最新の報告書 (IPCC第5次評価報告書第3作業部会報告書) には、2℃目標の達成に必要な5つの国・地域 (OECD-1990(※4)、経済移行国、アジア、中東・アフリカ、南米) における2030年の排出許容量 (2010年比) が5つの衡平性指標ごとに示されている。5つの地域・国は、各国の異なる事情を経済発展の度合いや地理的な要素などで整理したもので、5つの衡平性指標は、CDBR-RCの定量化を試みた指標であると解釈することができる。

それぞれの衡平性指標について、日本が含まれるOECD-1990における2030年の排出許容量 (2010年比) を図表に示した。OECD-1990の排出許容量は、ほぼすべての衡平性指標において、他の地域よりも大幅な排出削減が求められることになる。特に過去の歴史的な責任や先進国の能力を考慮した「責任・能力・必要性」や「一人当たり累積排出量」の衡平性指標を用いると、−80%から−100%を超える極めて厳しいものとなっている(※5)。一方、途上国でも相応の削減努力は必要であることが示されている。途上国の負担が軽減される温室効果開発権利 (GDR)(※6)など考慮した「責任・能力・必要性」の衡平性指標を用いても、中東・アフリカは+20~+40%まで、アジアは2010年と同程度まで排出を抑制することが必要とされている。

図表の排出許容量は、これから各国が提出するINDCの数値目標の一つの目安として活用され、新しい国際協定の実効性を高めることに役立つものと考えられる。準備が整った国は2015年3月末までにINDCを提出することとされている。各国が提出したINDCはUNFCCCのウェブサイト(※7)に掲載されるとともに、10月1日までに提出された各国のINDCを総計した効果についての統合報告書が11月1日までに作成されることになっている。

これまでINDCを提出した国は、スイス (2015年2月27日提出) とEU (2015年3月6日提出) で、2030年の削減目標は1990年比でそれぞれ−50%と−40% (2010年比の排出許容量換算でそれぞれ−51%と−29%) である。図表の「能力」、「平等」、「段階的方法」の衡平性指標からはほぼ妥当な数値目標と評価できよう。米国は2025年の削減目標を2005年比で−26~−28% (2010年比の排出許容量換算で−22~−24%) にする方向で検討していることを公表している。日本もエネルギー政策やエネルギーミックスにかかる国内の検討状況などをふまえ、できるだけ早期に提出することを目指して関係省庁が審議を継続している。国際社会からも理解を得られる数値目標が盛り込まれることに期待したい。

[図表] 5つの衡平性指標と、OECD-1990における2030年の排出許容量 (2010年比)
  • ※1United Nations Framework Convention on Climate Change
  • ※2Intended Nationally Determined Contributions
  • ※3Common But Differentiated Responsibilities and Respective Capabilities
  • ※41990年当時のOECD加盟国。オーストリア,ベルギー,デンマーク,フランス,ドイツ,ギリシャ,アイスランド,アイルランド,イタリア,ルクセンブルク,オランダ,ノルウェー,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,スイス,トルコ,イギリス,米国,カナダ、日本、フィンランド、豪州、ニュージーランドの24か国。
  • ※5−100%超は、正味排出量が吸収に転じることを意味する。
  • ※6Greenhouse Development Rights
  • ※7Intended Nationally Determined Contributions (INDCs) ” UNFCCCウェブサイト

このコラムと同じカテゴリの他のコラムを読む

年別

カテゴリ別