大和総研コラム

政党の弱体化が進むタイ

  • 国際
  • 掲載日 : 2015年3月16日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 新田尭之

2014年5月22日にタイで軍事クーデターが発生してからおよそ10ヶ月が経過した。政権を握った軍は暫定政権や暫定的な国会である国家立法議会 (NLA) などの機関を設置した上で、新憲法の制定やその後に控える総選挙に向けた作業を進めている。

この動きの中で最近特に注目されるのは、骨子が固まりつつある新憲法である。各種報道を見る限り、この新憲法には議会制度の改革を通じて政党の力を弱めようとする意図があるように思える。

第一に、下院議員はこれまで小選挙区が375人、比例代表が125人であったが、新憲法では前者が250人、後者が200~220人に変更される予定である。ここで比例代表の議員の割合が高められたことは、中小政党の進出を促す一方で、大政党の台頭を抑制する効果がある。

第二に、上院はこれまで選挙制・任命制(※1)の議員がおよそ半数ずつ選出されていたが、新憲法の下では全員が任命制となる予定である。そのため、任命制の下で選ばれた上院議員が選挙で選出された下院議員を弾劾する事態が起こり得る。仮にこうした事態が発生すれば、一部の国民から民意を無視した行動だとして猛反発を受けるであろう。

新憲法の他に注目すべきことは、政治家への締め付けが強まっている点である。代表例はタクシン派のインラック前首相である。同氏はコメ融資担保制度を通じて国家に巨額の損失を与えたことを理由に国家汚職追放委員会から告発を受けていたが、今年1月23日に国家立法議会で弾劾が決定され、公民権を5年間停止されることになった。そして2月19日には、検察がこの件で同氏を最高裁判所に起訴したため、同氏は最大で禁錮10年の刑を受ける可能性がある。

また、国家汚職追放委員会は反タクシン派のアビシット元首相、ステープ元副首相に対しても、2010年に勃発した反政府デモを鎮圧した際に多数の死傷者を出したとして弾劾に向けた手続きを開始している。約5年前の事件を蒸し返して裁こうとするあたりに何かしらの政治的な意図を感じるのは筆者だけであろうか。

指導者以外の政治家も国家汚職追放委員会のターゲットにされている。同委員会は2月後半にかけて、2013年に憲法改正案が上下院で可決された件に関し、当時の下院議員269名と上院議員38名に対する弾劾を国家立法議会に対して請求しようとしている。今後国家立法議会で弾劾が決定された場合、彼らもインラック前首相と同様、公民権を5年間停止される。

タイでは2016年以降に総選挙が実施される予定である。しかし上記の議論を踏まえると、政党政治家が持つ政治権力は弱まる一方で、軍や司法機関、国家汚職追放委員会を初めとする各種独立機関の存在感は比較的強い状態が続くと考えられる。こうした状況はタクシン派や欧米諸国からの批判を招くと思われるが、その半面で政治の不安定性が低下する可能性も指摘できよう。

  • ※1従来の2007年憲法では、憲法裁判所長官、国家汚職追放委員会 (NACC) の委員長などからなる人選委員会が学会・国家部門・民間部門等の様々な機関から推薦された人物の中から任命していた。

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