最近、トマ・ピケティ氏の「21世紀の資本」が大ブームである。本書では、投資による資本収益率 (r) は、経済成長率 (g) を常に上回っているため、投資資産を豊富に持つ富裕層に富の蓄積が集中していくとしたうえで、これを防止するための一つの解決策として、全世界が協力して、累進的な資本課税を導入することを提案している。これは所得ではなく、一定金額を超える個人の純資産 (負債を除いたネットの資産) に税率をかけた税額を徴収するというものである。税率の例として、100万ユーロから500万ユーロは1%、500万ユーロ以上は2% (さらには、10億ユーロ以上の場合は5~10%というオプションも示されている) といったイメージが示されている。課税は年次で行う。
所得課税であれば、利子や配当は別として、キャピタルゲインは譲渡しない限り (含み益に留まる限りは) 課税されない。しかし、純資産に税率をかけるのであれば、保有しているだけで税が徴収される。このような税が導入された場合、税率がより高くなる富裕層ほど、税金の支払いによる資産の目減りをカバーするため、資産から得られる収益によりセンシティブになり、より高い収益の得られる資産の運用方法・活用方法を求めるであろう。税制の意図とは異なり、証券会社・金融機関、資産運用会社、投資顧問会社、不動産会社、FPなどには、大きなビジネスチャンスが到来するかもしれない。
ピケティ氏の著書では、累進的な資本課税導入のためには、各国の税務当局が富裕層の資産を把握できる全世界的な情報報告システムが必要であるとしている。このような体制整備は遠い将来のように思えるかもしれないが、既に、それに近い体制整備は世界的に実施されつつあり、わが国でも、下記の体制整備が図られている (図られる予定である) 。
マイナンバー導入後は、①には個人番号記載が義務付けられる。②、③にも個人番号記載が求められると思われる。また、日本での課税を嫌って、海外に出国したとしても、有価証券・未決済デリバティブ等が1億円以上の者は、2015年7月1日以後は、出国時に含み益に課税される(※3)。
この先、消費税の負担増に伴い、消費税が非課税である点などをとらえて、不動産や金融資産への課税強化を求める意見が強まる可能性もあり、今後の議論の動向は注意する必要がある。上記の①、②が個人の自主申告がベースであることを考えると、「正直者が馬鹿を見る」税制につながりかねない点にも注意が必要である。
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