今年は年末にCOP21があり、2020年以降の気候変動対策の国際枠組み合意が目指されている。このため、各国は「COP21に十分に先立って」、「準備ができる国は2015年3月までに」、2020年以降の気候変動対策案 (約束草案) の提出が求められており、わが国でも早期の提出に向けて議論が始まったところだ。
京都議定書第一約束期間 (2008年~2012年) の削減目標 (温室効果ガス排出量1990年比▲6%) 達成のために、わが国政府は海外から約1億CO2換算トンの排出権 (京都メカニズムクレジット) を購入し、このために約1,660億円の予算を計上した(※1)。一方、産業界では、電気事業者が約2.8億CO2換算トンの排出権を海外から購入し、目標達成にあてた(※2)。仮に排出権価格を政府と同じ水準とすれば (つまり、1,660円 / CO2換算トン) 、4,600億円以上を投じたことになる。この他、鉄鋼や石油などの業界が海外からの排出権購入に動いた。
海外からの排出権購入は一見安価なCO2排出削減手段であり、世界の気候変動対策に資するものでもあるが、わが国経済にとっては国富の流出でもある。大気中の温室効果ガス濃度が400ppmを超えた今、気候変動対策が人類にとって喫緊の課題であることは確かだが、これからのわが国の気候変動対策は、国内での投資を促し、国際競争力強化に資するものとすることが望ましい。
具体的な方策としては、エネルギー利用の効率化 (省エネ) とエネルギーの低炭素化がある。この点で先んじているのがEUだ。EUは2020年温室効果ガス排出量20%削減を目標に掲げ、省エネとエネルギーの低炭素化を進めてきた。省エネの進展を測る指標としてGDPあたりのエネルギー消費量を見ると、EUでは減少の速度が増し、1999年にわが国を下回った (図表、左軸) 。一方、エネルギーの低炭素化の進展を測る指標として、発電量に占める再生可能エネルギー比率を見ると、こちらはEUで急速に上昇しており、1998年頃からわが国を引き離している (図表、右軸) 。
EUではエネルギー利用の効率化を進めるため、建築物における断熱、発電所でのコジェネ、地域冷暖房システムなどの技術を普及させてきた。また、固定価格買取制度や炭素税で再生可能エネルギー導入量を増やし、扱いにくい再生可能エネルギーを使いこなすため、気象予測や電力需給予測などの技術革新が進み、国際送電線など連系強化も進んだ。これらの改革には当然コストがかかるが、海外 (域外) からの排出権の購入と異なり、国内 (域内) における燃料費削減や産業育成、雇用創出などの効果が見込める。何より、国際社会が目指すカーボン・ニュートラル(※3)な世界では、たとえコストが低くてもCO2排出量が多いエネルギーの利用は制限される可能性がある。保守・革新を問わず気候変動対策に積極的なEUの姿勢を見ていると、「現状ではコスト増だとしても、2050年、カーボン・ニュートラルな世界では勝つ」、そうしたシナリオに賭けているようにもみえる。
IEA (国際エネルギー機関) の試算によれば、大気中の温室効果ガス濃度を450ppmで安定化させるためには、省エネおよび低炭素エネルギー技術への投資額を2035年に現状の6倍まで増やす必要がある(※4)。新興国を含め、世界中で省エネ・低炭素技術の需要が拡大する可能性がある。わが国企業の高い技術力を活かし、これらの需要を取り込む戦略も必要だ。これから策定されるわが国の「約束草案」の議論では、短期的なコストを考慮するのみでなく、2050年のカーボン・ニュートラルな世界を視野に、知恵と工夫が結集されることを期待したい。
掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。