大和総研コラム

東南アジアのポリティカルリスク評価

  • 国際
  • 掲載日 : 2015年1月26日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 増川智咲

ポリティカルリスクという概念がある。これは、投資先の政策変更や政治不安が、投資によって得られる利益を毀損するリスクを言う。例えば、政府による接収・収用・国有化のほか、戦争・テロ・暴動等がそれに含まれる。

統計データといったような数字による確固たる根拠を示せない分、将来起こるかもしれないポリティカルリスクを予想するのは難しい。まず、発生する可能性のあるリスクをリスト化し、それらが実際に生じる確率を考えなければならない。ただし、そこで作業が終わるのではなく、日々のニュースを基にその確率が高くなったのか低くなったのか、評価を見直す必要がある。政治的にセンシティブな内容については、すべての情報がタイムリーに分析者のもとに入るわけではない上、情報が入ったとしてもその真偽を判断するのは難しい。

いくつかの東南アジア諸国における少数民族や宗教、反政府勢力に関連した問題もポリティカルリスクの一つである。例えば、フィリピンにおけるイスラム勢力や共産党系反政府勢力と政府の対立、ミャンマーにおける少数民族と政府との対立、仏教徒とイスラム教徒間の対立が挙げられる。筆者はアジア担当として、これらの国々の政治動向を追っているのだが、最近これらのリスクが緩和しているようにも思える出来事があった。まず、フィリピンでは、政府と長年対立関係にあったモロ・イスラム解放戦線 (MILF) が包括和平に合意し、2016年の自治政府樹立に向けて交渉が進んでいる。フィリピン経済は近年高成長を遂げており、今後外資によるさらなる投資の呼び込みが期待されている。今回のMILFとの合意には、成長には治安の改善が不可欠という政府の認識が表れている。また、ミャンマーにおいても少数民族武装勢力との停戦合意が進められている。実現は不透明であるが、連邦制創設といった話題がニュースに挙がるくらいである。

フィリピン、ミャンマーでは半世紀以上にも亘って膠着状態であった政府と反政府勢力との関係に一筋の光が見える。しかし、これにより完全にリスクがなくなったかというと疑問が残る。例えば、フィリピンではMILFとの包括和平合意を不服とする他勢力によるテロ行為のリスクがあるほか、ミャンマーでは仏教徒とイスラム教徒間の対立が残っている。つまり、リスクの程度は下がっているが、今後上昇する可能性も大いにある。2015年にはミャンマーで総選挙が、2016年にはフィリピンで大統領選挙が実施される。おそらく、両政府の和平へ向けた姿勢は選挙を見据えたものだろう。今後、さらなる動きに備え、リスクの程度の変化に注視しなくてはいけない。


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