大和総研コラム

孫に残す22世紀の日本

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2014年12月12日
  • 大和総研顧問 小笠原倫明

いきなり私事で恐縮だが、本年2月に初孫を授かった。先日我が家に来てくれた孫を抱いて近所を散歩した際、ふと「この子は22世紀を見るかもしれないんだな。」と考えた。これまで超長期の議論に及ぶと、「どうせ自分は…」という思いがかすめたが、孫が絡むとなると真剣味が増す。我ながら現金なものだ。

将来世代を心配すると、先ず思い浮かべるのは社会保障負担の事であろう。国立社会保障・人口問題研究所 (社人研) の中位推計では、2050年前後に老齢人口 (65歳~) が約40%に達する。生産年齢人口 (15歳~64歳) は約50%。一人が一人を担う、いわゆる「肩車」となる (現在は三人で一人の「騎馬」) 。それに私の孫の世代は耐えられるのか。分子を減らし、分母を増やす。できる限り多くの高齢者が経済活動に参加して所得を得、年金・医療・介護のコストを負担「される」のでなく負担「する」側に回る事が不可欠。

要するに社会保障給付のスリム化であるが、併せて、今後は、大多数の日本人が70歳前後あるいはそれ以上まで働くことを前提に、日本社会における雇用、労働の在り方を考えていく必要がある。

もっとも、給付の見直しは、既に目前に迫った課題。孫というより子、そして私自身の問題である。精々長期。「超」長期の問題は、「高齢化」というより「少子化」=人口減少。

国の超長期の盛衰の基本は人口。今世紀半ばに至っても、米国は世界経済における優位性を維持すると見る向きが多いのも、米国の人口が増勢を維持するため。翻って日本の人口は、となると、上記の社人研の中位推計では、2010年の1億2,806万人が2030年以降毎年100万人ペースで減少し、2048年に1億人を割り、2060年に8,674万人。更に2100年には5,000万人も割り込み、私の祖父以前の時代に戻る。

社人研の推計は、出生率 (直近は1.4強) を1.35程度と想定。従って、出生率をより高める (例えば当面1.8、将来2.1) 環境を整備すべきとの議論が始まったのは当然と言える。但し、出生率の向上には、それこそ超長期の取組が必要。出産や育児を支援するための職場・社会の仕組みを整え、且つ、それがマクロの出生率に効果を現す迄には相当な期間を要する。ちなみにフランスの場合、出生率を1.6→2.0に引き上げるのに30年を要し、そのための政府支出はGDP比で日本の3倍と言われている。

出生率の向上以外に人口を維持する方策は「移民」しかない。例えばドイツは、自然減にも係わらず移民によって人口増を確保している。上記の米国の人口増勢と移民との関係は説明不要。勿論、これらと日本を同列に論ずるわけにはいかない。日本の地理的位置 (極東の島国) や言語の問題等からして、我が国が世界から人材を得る点で恵まれた環境にないことは事実。

但し、世界の人材を引き付ける力のない国が、今後活力を維持していけるとは考えにくい。また、医療、介護、子育ての分野でも、 (生産性の向上に取り組む必要はあるにしても) 人的供給面の制約を解決することは大きな課題。残念ながら、外国人の労働環境について、日本が高い評価を得ているとは言い難い。今後は、インバウンド観光への取組と同様に、海外の方に、日本で長く働き続けて頂く、住み続けて頂くにはどうすればよいか、それに伴い日本社会に与えるストレスを減ずるにはどうすればよいか。外国人を引き付ける潜在可能性 (経済力) を日本がなお有していると思える今、検討を始めるべきではないかと考える。

元より、容易な事とは思われない。しかし、出生率を1.4→1.8→2.1 (長期的な人口維持に必要な水準) に上昇させることもまた容易ではない。両者は、ともに日本がチャレンジすべき課題と思われる。

ここで触れなかった女性 (もはや当然) を含め、高齢者、外国人など「多様な人材」を許容する社会は、「多様な働き方・生き方」を許容する社会であろう。情報通信技術の飛躍的進歩などはそれを容易にする筈である。企業、社会、国の仕組みを変えることが超長期の成長戦略と思われる。

「極東の静かな国でよいではないか。」、あるいは「欧州の小国は悠然としたもの。」と仰る方もいる。「悠然とした」環境が、現在のトレンドの延長線上に実現できるかどうか。欧州の「小国」 (中にはかつての大国も) が、何故、悠然とできるのか。経済繁栄の下に生きた我々が孫達に何を残せるのか。想うことは多いが、この辺で筆を置く。

小笠原 倫明

元総務事務次官。1976年京都大学経済学部卒業 郵政省入省。情報通信政策局長、情報通信国際戦略局長、総務審議官 (郵政・通信担当) を経て2012年に総務事務次官。2013年10月より現職。一般財団法人日本ITU協会理事長。


このコラムと同じカテゴリの他のコラムを読む

年別

カテゴリ別