大和総研コラム

イノベーションは誰が起こすのか

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2014年11月14日
  • 大和総研調査本部 常務執行役員 引頭麻実

アベノミクスの第三の矢である民間投資を喚起する成長戦略は、これからという状況である。

第三の矢の構成要件として規制緩和などが挙げられるが、それらと並んで必要性を唱えられているのが、『イノベーション』である。規制緩和は現在ある規制を文字通り緩和するということなので、対象はある意味ではっきりしている。一方の『イノベーション』はその範囲も広く、一体何をどうすれば良いのかはっきりとわからないことが特徴でもある。言葉はあるが、やり方はよくわからない。ましてや再現可能性の担保など皆目見当もつかない、というのが一般的な感想だろう。

イノベーションについて、経済学上の概念を初めて与えたのが、1912年、シュンペーターが29歳の時の著作である「経済発展の理論」である。そのなかで、“経済自身が内部から生み出す、経済循環の変化を経済発展であるとし、それを可能とするのが『新結合』 (ニューコンビネーション) であり、これが非連続あるいは飛躍的な形で達成された際に実現する”とされている。この『新結合』がイノベーションの姿であり、これこそが経済発展の源であるとしている。さらに、『新結合』についても5つ類型があるとしている。

  • ①消費者が知らない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
  • ②新しい生産方法の導入
  • ③新しい販路や市場の開拓
  • ④原料もしくは半製品の新しい供給源の獲得
  • ⑤新しい組織の実現 (独占的地位の形成、もしくはその打破)

これらをみると、イノベーションは必ずしも技術だけではなく、マーケティングや生産革新、調達、販売戦略など、多面的なものから形成されているのが大変興味深い。100年以上前の経済学者が、このような発想を持っていたことに対して敬服せざるを得ない。

日本でイノベーションと言えば、なぜか『技術革新』と訳されてしまったこともあり、研究開発や技術開発に焦点があたっている。しかしながら、『技術』のみではイノベーションが起きないことはすでに歴史が証明している。

広く知られているように、日本の国際特許出願件数は2013年も米国に次いで2位の地位にある。2003年以降不動の2位を堅持している。しかしながら、日本がイノベーション大国であるとの評価には一般的にいたっていない。技術開発とイノベーションの間に何かが欠けているのである。

開発の仕事と言えば、多くの企業は研究開発部門の仕事と位置付けられている。逆に言えば、研究開発部門以外の人にとって開発、ましてやイノベーションは自分とは全く関係のない領域の仕事と認識している。しかし、シュンペーターが指摘しているように、技術開発だけではイノベーションにはならない。それが何かと“結合”しない限り、何も変わらない。

この“結合”がキーワードである。マーケティングや生産革新などと結びついて新しいビジネスモデルが開発できなければ、イノベーションは起こらない。研究開発部門だけの閉じた仕事に留まらず、他の部署と連携しなければ、真のイノベーションの領域まで到達できないのである。

もしかしたら、日本がイノベーションを苦手と思っているのは技術開発の領域ではなく、それを社会的インパクトのあるものへとビジネス構築する領域であるのかもしれない。とすれば、逆に光明がある。研究開発関連以外のビジネスマンがイノベーションに興味を持ち、何らかの社会的問題の解決についての意識を高め、またそれを実現するために周りと“つながる”ことができれば、うねりが始まる。当初は小さく本人もイノベーションと気づかないかもしれないが、やがて大きなうねりとなっていく。イノベーションを起こすのは誰かではなく、自分なのである。


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