大和総研コラム

宇宙でみた日本人らしさ

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2014年10月17日
  • 大和総研調査本部 常務執行役員 引頭麻実

誰もが一度は行ってみたいと思いを馳せるのが宇宙である。人類にとっての開拓フロンティアの一つであり、いまだ解明されていないことは山ほどある。

今年9月、安倍総理は内閣に設置された宇宙開発戦略本部会合において、年内を目途に新しい宇宙基本計画の策定を指示した。これは日本の宇宙開発が新しいステージに一歩踏み込むことを意味する。

ただし、宇宙基本計画は現在も存在する。昨年1月に宇宙開発戦略本部が決定したもので、その期間はその後の10年間を視野に入れた、2013年度からの5年間が対象とされていた。計画2年目にあたる今、なぜ新計画が必要ということになったのか。

2008年に成立した宇宙基本法では、日本の宇宙政策はこれまでの科学技術 (研究開発) 主導から科学技術、産業振興、安全保障の三本柱からなる利用・出口戦略を重視する方針へと大きく転換した。しかし、そのうち安全保障分野に対する具体的な施策は乏しく、現在の宇宙基本計画でもあまり盛り込まれていない。これが見直しの大きな背景とされている。

宇宙開発事業は国家の一大事業として位置付けられてはいるが、現実は厳しい。財政悪化を反映し国の宇宙開発予算は大幅に縮減されている。宇宙開発事業の財源を国に依存してきたため、関連企業の事業撤退や人員削減などが常態化し、産業基盤は必ずしも盤石ではなくなってきた。宇宙基本法にもうたわれているとおり、利用・出口戦略をますます重視する必要がある。

先日、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の筑波宇宙センターを訪問する機会を得た。さまざまな展示物を拝見したが、そのなかに、実物大の「きぼう」の展示があった。「きぼう」とは、現在世界15ケ国が参加する国際宇宙ステーション (ISS) プロジェクトの一部を構成する、日本実験棟のことである。ISSには2000年から宇宙飛行士が長期滞在を開始した。現在では約3ケ月ごとに要員交代を行っている。「きぼう」は2009年7月に完成、ISSの一部として稼働した。船内でのタンパク質結晶生成宇宙実験や船外での全天X線監視装置 (MAXI:見えない宇宙をX線で見る装置) の運用などさまざまな実験や装置の運用を行い、着実に成果を蓄積している。実は少し不思議なことに、この「きぼう」がISSに参加している他国の宇宙飛行士の人気を博している。その人気の秘密は「きぼう」の船内保管室にある。船内保管室は直径 (外径) 4.4m、長さ4.2m、質量4.2t (搭載物がない状態) の円筒型をしており、「きぼう」の一部を構成している。「きぼう」はこのほか、船内実験室、船外実験プラットフォームの3つの部分から構成されているが、この船内保管室があるおかげで、船内実験室を常にきれいに整頓することが可能となっている。他国のモジュールでは、使い終わった機材を置く場所がないこととは対照的だ。このこぎれいさとモジュールの中が静かなことが人気となり、たまに他国の宇宙飛行士が寝袋をもって寝に来ることもあるそうだ。さらにもう一つ、ISSの運用を支えているものに日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」 (HTV) がある。ロシアや欧州も補給機を運用しているが、いずれも搭載できるのは船内物資のみ。一方の「こうのとり」は船内物資、船外物資ともに同時輸送できることが大きな特徴で、現在ではISS物資補給の中心的な役割を担う。正確なロジスティックスを誇る日本ならではの発想と思うのは筆者だけだろうか。「きぼう」や「こうのとり」は宇宙での長期滞在をより快適なものにするための一翼を確実に担っている。

日本の宇宙開発は資金面、利用面でもまだまだ厳しい局面が続くだろう。民間の活躍も大いに期待されるところではあるが、もしかしたら、ちょっとした日本人らしさを取り入れることが、その突破口の一つになるのかも知れない。民間の知恵が活躍する時代がきた。


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