大和総研コラム

インドネシアからフィリピンへ伝播した保護主義の流れ

  • 国際
  • 掲載日 : 2014年9月29日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 新田尭之

9月3日頃からニッケル先物価格(※1)がにわかに上昇し、8日には約4ヶ月ぶりの高値に達した。この契機となったのは、世界有数のニッケルの産地であるフィリピンの上院で未加工鉱物の輸出を制限する法案が提出され、それが委員会レベルで可決されたことである(※2)

この法案の成立を目指す国会議員達を勢いづけているのは、同種の措置がインドネシアで一定の成果を収めたことであろう。インドネシアは国内での付加価値を高める目的で、今年の1月に未加工鉱物の輸出制限を開始した。その結果、ニッケルやボーキサイトなどの鉱物は精錬されたものでなければ輸出できず、また銅や金、鉄鉱石といった鉱物は精鉱の形では3年間輸出可能であるが、その間高い輸出税 (20%~60%) を課されることになった。

これに大きく反発したのがフリーポートやニューモントといった外資系企業である。報道によれば、両社はインドネシアの銅生産の約97%を担っていたが、この制限措置を受けて生産量を大きく減少させる事態に追い込まれた。しかし、最終的には両企業とも政府と妥協してMOUを結ぶこととなった。その結果、企業側は当初定められた水準より低い税率 (7.5%) で精鉱を輸出できるようになったが、一方で従来よりも高いロイヤリティを支払い、さらには溶鉱炉の建設を担保するため保証証券を発行することになった。

企業側にやや不利な決着となった大きな要因は、彼らが交渉上不利な立場に置かれていたことであろう。企業側は輸出の停止が長期化するほど業績が悪化し、株主などから経営責任を追及されるおそれがある。このような状態に置かれている中、事態を迅速に解決するためにはある程度政府に譲歩せざるを得なかったと推察される。もちろん、企業側にはインドネシアの司法機関のほか、WTOのような国際司法機関、および国際仲介機関に訴える選択肢もあったが、これらの手段を積極的に取ることはなかった(※3)。事態の長期化や政府との関係悪化を通じ、自身の首を絞める結果になるおそれがあったからであろう。

上記の銅のケース以外では、外資系企業が溶鉱炉を建設する話はほとんど聞かれない。そのため、外資の投資を通じた加工技術の獲得といった意味ではインドネシア政府は目的を十分に果たしたとは言えないだろう。しかし、今回の銅輸出を巡るインドネシア政府と企業の交渉の過程は、保護主義的な措置を通じて政府収入の増加や加工技術の獲得が可能となった先例として多くの資源国で認識される可能性も十分に考えられる。

企業側は、こうした措置に対してできるだけ早期に対策を講じた方がよいだろう。措置が実施されるまでの期間が数年以上あれば、現地国内外の司法機関を利用した解決も選択肢の1つとして十分に考えられるし、また自国政府や同業企業の協力を取り付けて現地政府と交渉をある程度優位に進めることも可能であると思われる。

  • ※1LME (ロンドン金属取引所) ニッケル3ヶ月物
  • ※2なお、この法案と全く同じ文言の法案が既に7月10日に下院に提出されている。両院に同内容の法律を提出した理由の1つは審査期間の短縮であるとみられる。下院の法案 上院の法案
  • ※3ちなみに、ニューモントは国際仲介機関への申し立てを行ったが、ユドヨノ大統領が「断固とした措置を取る」と発言するなどインドネシア政府の猛反発を招いたこともあり、同社は結局申し立てから1ヶ月もせずにこれを取り下げた。

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