今回は、前回のコラム(※1)で触れた筆者が委員を務める国際監査・保証基準審議会 (IAASB) 諮問・助言グループ (CAG)(※2)が抱える最大のテーマである「監査報告書の改訂」の現状について説明する。同基準は、近々最終化を迎える予定である。
日本では、監査報告書とは、有価証券報告書等の最後に一緒に綴じられている1枚の「独立(※3)監査人の監査報告書」という定型文の報告書を指す。実際の監査報告書では、「監査の対象 (監査の対象となった財務諸表の範囲) 」、「実施した監査の概要 (監査基準に基づく監査) 」、「監査意見(※4)」となる。
大半の利用者は、その存在について、それほど気にもかけない有価証券報告書の1ページであったと思われる。これを裏返せば、利用者にとっては「監査」とは何を行っているか、多少なりとも“ブラックボックス”であったことは想像に難くない。
この“監査がブラックボックス化している”という問題意識はあり、何十年も以前から議論されている古くて新しい課題であったが、その解決の必要性が再認識されたのがリーマン・ショックであった。IAASBは2000年代の半ばから監査報告書の記載の変革の方向性について議論してきたが、リーマン・ショック後の2011年から、その調査(※5)を本格化した。米国公開企業監視委員会 (PCAOB) 、欧州委員会 (EC) 、英国財務報告協議会 (FRC) においても同様の動き(※6)があった。
IAASBの中核テーマは「監査報告の価値の強化」であり、監査の付加価値が改めて問い直されたのであった。それを最終的に「監査報告書の改訂」という形で突き動かしたのが、利用者のニーズ=“財務諸表の重要な事項および監査実施に関する透明性向上”と“そのためのイノベーションの必要性”であった(※7)。
IAASBは、既に新しい基準の記載内容を盛り込んだこれまでより“長文”の監査報告書の記載例を公表している。記載内容については、CAGの会議の中でも意見としてあったが、客観視すれば、それほど目新しい記述はないと見受けられる。このため監査報告書の付加価値を高めるために、監査人が得た企業の一次情報をどの場合に記載するかというガイダンスも提示されている。
しかし、最大のポイントは、利用者からのニーズにあった「外部監査人が、経営者とのコミュニケーションを通じて、財務諸表のどの部分を重要な事項(※8)として専門的に判断し、監査上どのように対処したのか」という監査自体の透明性の向上である。監査の成果物としての監査報告書が注目されてしまう傾向があるが、このポイントを軸に、監査報告書の改訂の今後を注視していく必要があろう。
英国では、既に2012年10月1日以降の開始事業年度より新たな監査報告書が発行済の状況である。適用対象は、英国のコーポレート・ガバナンスの適用企業の監査であり、コーポレート・ガバナンスの強化とセットで監査報告書の改訂が導入された。監査報告書の改訂はコーポレート・ガバナンスの強化に間接的につながることが目的とされていることも注目すべきポイントと言えよう。
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