大和総研コラム

脱石炭に舵を切る米国

  • 環境
  • 掲載日 : 2014年7月22日
  • 大和総研環境調査部 研究員 物江陽子

オバマ大統領は就任当初、気候変動対策を重要な政策課題とし、連邦レベルでの排出権取引制度導入を目指していた。しかし、関連法案は全て廃案となり、2012年の大統領選挙でも気候変動対策は争点にならなかった。このまま米国の気候変動対策は停滞するかのように思えた。

ところが昨年、政権が2期目に入ると、大統領は再び気候変動対策に動き始めた。年初の一般教書演説では、ハリケーン・サンディや干ばつ、山火事などの例をひきながら気候変動リスクについて訴え、議会が動かなければ大統領権限で気候変動対策に取り組む意欲を示した。そして6月には包括的な気候変動対策パッケージ「大統領気候行動計画」を発表。環境保護庁 (EPA) に大気浄化法に基づく火力発電所のCO2規制案の策定を命じた。EPAは今年1月に新設発電所に対する規制案を、6月には既設発電所に対する規制案を発表した。これらの規制案は米国内で石炭火力発電所の新設を困難とし、廃炉を促す極めて厳しい内容となっている。

米国ではシェール革命により天然ガスの価格が下がったため、発電部門では石炭から天然ガスへのシフトが進み、発電部門におけるCO2排出量は2005年から2012年までに約16%減少した(※1)。規制案はこの「脱石炭」の動きをさらに強力に推し進めるとともに、省エネの推進、天然ガスコンバインドサイクル発電および再生可能エネルギーの活用を促し、2030年までに発電部門におけるCO2排出量を2005年比30%削減することを目指している。石炭産業や製造業はこれらの規制案に強く反対しているが、CO2排出規制は大気浄化法に基づくもので、CO2を同法の規制対象とする連邦最高裁判所判決も出されており、法的根拠がある(※2)。規制を無効化するには新たな立法が必要になるが、そうした法案が議会を通ったとしても大統領拒否権の行使が予想される。規制が実施される可能性は高い。

米国では先月、金融危機当時の財務長官だったヘンリー・ポールソン氏が、対応が遅れたために深刻な影響を招いた金融危機の経験から学び、気候変動リスクに早急に対応すべきであるとの論考をニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したことが話題を呼んだ(※3)。ポールソン氏は同月、ニューヨーク市長のブルームバーグ氏、ヘッジファンド出身のステイヤー氏とともに、気候変動が米国経済に与える影響についての報告書を発表した(※4)。この報告書の作成には、不動産投資会社会長や穀物メジャー会長なども関わっている。米国のビジネス・コミュニティにおいても、気候変動リスクへの認識は深まりつつあるようにみえる。

日本では震災以降、気候変動対策の優先順位は低下した感もあるが、気候科学研究者たちの警告に耳を傾け、気候変動をひとつの危機と認識して、英知を結集して対策にあたる必要があろう。ポールソン氏にならえば、金融危機が「百年に一度の危機」だったとすれば、気候変動は「一万年に一度の危機」かもしれないのだ。


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