振り込め詐欺 (オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺の4種類)(※1)の被害が減らない。特に東京都におけるオレオレ詐欺は、被害の認知件数が36%、被害額が32%で全国最多となっている(※2)。犯人がなりすましたのは息子が多く全体の約8割を占め、被害者の8割以上は女性だった(※3)ことから、「息子を持つ母親」をターゲットにしているようにも見える (図表1) 。ただし、なりすまされた者の職業の約7割が会社員であることと、欺罔文言 (だまし文句) の上位 (図表2) を合わせみると、男性がトラブルに陥ったと錯覚させる方が容易な社会環境であることも関係しているように思われる。女性は男性に比べて、非正規労働者における割合も、収入の低い区分における非正規労働者の割合も高く(※4)、こうした層では多額の小切手を扱うような業務が少ないと思われるため、「小切手が入ったカバンを置き忘れた」といっても信用されにくいと考えられるからである。しかし、今後、業務の内容に男女差がなくなってくると、娘や女性の孫をかたった詐欺も増えてくるかもしれない。
また、女性の子供の方が親と連絡を取る機会が多い(※5)ためだましにくいという男女差もあるのではないかと考えたが、これは違ったようである。なりすまされた者とは、被害に遭う1ヶ月前以内に会っている割合が4割以上、月1回以上連絡を取っている割合が約6割、振り込め詐欺などの被害防止について話したことがある割合が4割以上(※6)と、全体的に「まぁまぁ」連絡を取っているからである。
警視庁では、高校の名簿を利用して「 (息子や孫の) 名前を名乗った」り、「職場の情報を知っている」ことが多くなっており、家族だけが知っている合言葉を決めておくことを有効な対策として紹介している。もはや「氏名」、「電話番号」、「会社名・学校名」などは、自分が教えたつもりはなくても、誰にでも知られているものと考えた方が良い、ということである。これは、ネット世界でも同じである。メールアドレスのような「秘密ではない」情報をIDとして利用しているサービスの場合、なんらかの理由でパスワードが漏れれば簡単になりすまされてしまう。昨年あたりから急増しているパスワードリスト攻撃 (なんらかの方法で入手したIDとパスワードのリストを流用して、他のサイトに対して不正ログインを試みる手口) が、今年に入っても多発しているが、なりすまされた原因は同じである。対策の1つ(※7)として、一般には知られておらず当事者だけが知り得る情報を認証に加えることが求められている (図表3) 。
なお、こうした詐欺問題に詳しい専門家によると、1番効果的な方法は、常に留守番電話にしておくことだそうだ(※8)。だます方は声が録音されることを嫌がるから、留守番電話とわかると切ってしまうそうである。この方法は、振り込め詐欺だけでなく、無用なセールスの電話やいたずら電話対策にもなる。家族や友人などにとって本当に必要な連絡であれば、伝言を残すだろう。また、その伝言を聞いてから折り返し電話をかけても遅いことはないし、偽の電話番号にかけることもなくなる。あらかじめ「詐欺対策のため在宅でも留守番電話にしているから、伝言してくれれば折り返す」と言っておけば、心配されないだろう。「電話は待たせないですぐ出る」というマナー意識を捨てて、「電話には出ない」ことを習慣付けてもらうことは難しいかもしれないが、これは子供・孫の方から親・祖父母にお願いするしかない。
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