大和総研コラム

リトアニアのユーロ圏加盟で転機を迎えるECB

  • 国際
  • 掲載日 : 2014年6月17日
  • 大和総研経済調査部 シニアエコノミスト 山崎加津子

6月4日にECB (欧州中央銀行) と欧州委員会は2014年版の「コンバージェンス・レポート (収斂報告書) 」を公表した。これはEU (欧州連合) 加盟国のうち、まだユーロ圏に加盟していない国々が、マーストリヒト条約が定めるインフレ率、長期金利、財政赤字、公的債務残高、為替の5つのユーロ圏加盟要件を満たしているかを判定するレポートである。今回の審査対象国は、ユーロ圏への加盟義務を免除されている英国とデンマークを除いた、ブルガリア、チェコ、クロアチア、リトアニア、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スウェーデンの8か国であった。審査の結果、リトアニアが全ての基準を満たしたと評価され、欧州委員会は同国が2015年1月1日にユーロ圏加盟国となることが適当であると勧告した。7月のEU財務相理事会での承認を経て、リトアニアが19番目のユーロ圏加盟国になると見込まれる。

リトアニアの人口は約300万人でユーロ圏の1%に満たず、GDP規模はわずかに0.4%にとどまる。このため、リトアニアのユーロ圏加盟のインパクトは一見ごく小さいのだが、実は同国が19番目の加盟国となることで、ECBに大きな変化がもたらされる。影響を受けるのは、ECB政策理事会 (Governing Council) における議決権の配分方法である。ECB政策理事会は本部理事6人 (総裁、副総裁、4人の理事) と、ユーロ圏加盟各国の中央銀行総裁 (2014年は18人) がメンバーである。現在はこの24人全員が議決権を有しており、日米英などの中央銀行に比べて格段に多い。EU条約ではユーロ圏加盟国が15か国を超えた時点で加盟国中銀総裁の議決権を15に制限し、輪番制を導入することを定めている。ただし、ECB政策理事会の3分の2以上の賛成があれば、加盟国が18か国になるまでこの輪番制の導入を延期することができ、現在はこれが適用されているのである。

リトアニアのユーロ圏加盟に伴い導入される輪番制は、やや複雑な制度である。各国のGDP規模と銀行資産規模を勘案したランキングで上位5か国が第1グループ、それ以外が第2グループに分類され、前者には4議決権、後者には11議決権が割り振られる(※1)。各グループ内では議決権は平等に回ってくる。輪番制になっても各国中銀総裁は全てのECB政策理事会に出席するが、議決権がある場合とない場合が出てくるのである。第1グループにはドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダが入ると予想され、ユーロ圏GDPの3割弱を占めるドイツの中銀総裁も5回に1回は議決権がないことになる。もっとも、本部理事6人は常に議決権を有している。そしてこの6人は、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの出身者が各1人ずつ、残り2人は他国が占めることがこれまでの暗黙の了解であり、ドイツ人が議決に参加しないで政策決定がなされる可能性はごく低いであろうが。

ところで原則論を言えば、ECBはユーロ圏を一つの経済圏とみなして金融政策を決定し、ECB政策理事会メンバーも各国の代表ではなく、ユーロ圏の一員として政策決定に関わることが求められている。このため、ECB政策理事会の議決に際して、全ての加盟国が常に議決権を有するのではなくなることを、今さら大きな変化として指摘するのは的外れかもしれない。とはいえ、1国1議決権が輪番制に変われば、ECBは各国の代表の機関ではなく、名実共にユーロ圏の機関となる。欧州統合がさらに一歩進むことを象徴するできごとになると考えられる。

  • ※1ユーロ圏加盟国が22か国以上に増えた場合は3グループに分類することになっている。

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