大和総研コラム

政権交代でインドは変わるか?

  • 国際
  • 掲載日 : 2014年5月29日
  • 大和総研経済調査部 アジアリサーチ・ヘッド 児玉卓

インド株価の高騰が続いている。政権交代への期待が、新政権の下での高度成長再開への期待へと受け継がれてきていることが一番の背景である。4月から5月にかけて行われた総選挙は、野党・インド人民党 (BJP) の圧勝に終わり、国民会議派を中核とする連立政権からの政権交代が実現した。しかも、BJPは下院選挙で争われた543議席のうち282議席の過半数を確保した。インドで単独政党が過半数を占めるのは1984年以来、実に30年ぶりのことである。このことが、インド版「決められない政治」脱却の期待を高め、株価の上昇に拍車をかけている。

新首相に就任したBJPのナレンドラ・モディ氏は、これまでグジャラート州の首相として、ビジネスフレンドリーな政策を遂行してきたとされる。その柱は電力供給、輸送などのインフラ整備、及び、積極的な外資の誘致である。成長促進策としては常套手段といえるが、こうした比較的当たり前のことが、インド連邦政府の「決められない政治」の中では容易に進まなかった。だからこそ、モディ氏の首相就任が歓迎されているのである。事実、グジャラート州の近年の成長パフォーマンスは全国平均を上回っており、2013年度までの5年間の平均成長率は全国6.6%に対し、グジャラート州は8.7%に達する。

もちろん、今のところは全て「期待」にすぎない。BJP圧勝により議会運営が容易になったのは確かだが、全国レベルでの成長促進的な政策の遂行の障害となってきたのは、議会における意見対立だけではない。行政における深刻な腐敗にメスを入れることができなければ、政策に実効性を持たせることは難しい。そもそも、全国レベルでのトップダウン的政策の実現は、地方におけるそれよりもはるかに困難であろう。モディ氏がグジャラート州で強いリーダーシップを発揮することができたのは、連邦政府から独立した政策遂行における裁量が州政府に与えられていたからに他ならない。連邦政府の長となった今、モディ氏は強い自主権を持つ各州を束ねることの困難に直面するはずである。更に、BJPは選挙に向けたマニフェストの中で、懸案の小売分野における外資規制の緩和を否定している。露天商などの巨大な既得権者への配慮であろうが、これが選挙戦略にすぎず、実際には規制緩和の余地を探っていくのか、或いはBJP政権にとってもこうした既得権は聖域なのか、今のところ何ともいえない。つまり、ビジネスフレンドリーな政策遂行の本気度がわからない。

しかし、たかが期待と軽視することも適切ではない。重要なことは、「インドは変わるかもしれない」という空気が生まれてきていることである。振り返れば、およそ1年半前の日本でも、政権交代が実現し、「決められない政治」が終わるという期待が強まった。そして、株価が上昇する中で、人々の心理に染み込んだ「デフレ脱却は無理」、「日本経済の停滞は続く他ない」という諦観が後退し、「日本ももしかしたら変わるのかもしれない」というムードが生まれた。これが今に続く景気拡大の起点であっただろう。期待の変化が家計の消費行動、企業の投資活動を先導するケースもあり得るということだ。巨大途上国インドにあっても、成長期待の上方修正が、内外企業の投資再開のきっかけになる可能性はある。

もっとも、同様の文脈から、人々が「やはり変わらないのか」と思い始めたとき、日本にせよインドにせよ、期待が経済を刺激する効果は薄れる。のみならず、深刻な反動に見舞われることにもなろう。変わるかもしれないという期待を温存し、より強めるために、BJP政権が何を打ち出してくるのか、まずは「期待」を持って注視していきたい。


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