大和総研コラム

中国:秩序ある都市化推進の新たなキーワード「三つの1億人」

  • 国際
  • 掲載日 : 2014年4月7日
  • 大和総研経済調査部 シニアエコノミスト 齋藤尚登

2014年3月の全人代 (日本の国会に相当) では、秩序ある都市化推進のために、今後一定期間は「三つの1億人」の問題を解決するとの方針が示された。一定期間とは2020年までを想定し、「三つの1億人」とは、①農業からの移転人口約1億人の都市戸籍への転換を促進する、②約1億人が暮らす都市部バラック地区と城中村 (都市と農村との間に存在し、流動人口に安価な住宅を提供) を改築する、③大都市へのさらなる人口流入を制限する一方で、中部・西部に約1億人分の都市化を推進する、ことを指す。②は民生改善を目的とし、③はリーマン・ショック後の4兆元の景気対策による、需要を無視した住宅建設ブームで誕生したゴーストタウンへの対応も念頭に置かれていよう。

最も注目されるのは、①の約1億人の農村戸籍の出稼ぎ労働者を都市戸籍に転換する政策である。2014年2月7日に開催された国務院常務会議は、農村住民社会年金と都市住民社会年金を統一し、将来的にはより所得代替率の高い都市従業員基本年金への接続を認める方針を打ち出した。2月21日付の「都市・農村住民基本年金保険制度の統一に関する国務院の意見」では、2015年末までに統合を実現予定で、個人口座年金の保険料は年間100元~2,000元の12段階 (100元~1,000元までの100元刻みと1,500元、2,000元) に設定するとしている。これまで分断されていた都市と農村の年金制度を統一し、農村から都市への年金の接続が認められれば、出稼ぎ労働者は、都市戸籍と都市住民としての福利厚生を享受することが可能となる。中長期的には消費活性化につながる良い方針が打ち出されたと評価すべきであろう。

もっとも、約1億人の出稼ぎ労働者を都市戸籍に転換するのにこれから7年かかると想定されることからすれば、積年の課題である都市と農村で分断された戸籍そのものを統一するにはまだまだ時間がかかりそうである。都市と農村を分断する戸籍制度が存続する限り、農村の労働力の質的向上が阻害され、貧富の差が期待されるほど縮小しないといった弊害が生じるリスクがある。農村出身者が大学に進学すると、大学が管理する集団戸籍に移され、卒業後には都市に残るにせよ、農村に戻るにせよ、都市戸籍が与えられる。基本的に、農村戸籍の人々が大学に進学すると、再び農村戸籍に戻ることはなく、高学歴者は都市に集中する。さらに、最終学歴と年収の関係を見ると、修士までは学歴と年収は比例する (ただし、博士になると年収は減少) 。結果として収入が多い高学歴者は都市に集中することになる。

この点で、重慶市など一部地域で、都市と農村の戸籍統一のテストが実施されているのは、前向きな一歩である。戸籍統一の際には、農村戸籍の人々にも平等に教育機会が与えられ、大学卒業後も農村で魅力的な職場が提供されることが同時に行われる必要があろう。これが将来的に都市と農村の教育・収入格差が大きく縮小していくための前提条件である。


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